第41話 魔巣へのみち
カバンを持ってクラスを出ようとすると、柚乃に呼び止められた。
柚乃は1人ではなく、クラスメート2人と一緒に帰るところのようだ。
「あ、光希。まだいた。よかった」
柚乃はタタッ駆けてきて、俺に小箱を渡した。
「それ。渡せてなかったからさ」
柚乃はそう言うと友達のところに戻って、笑い合って教室から出ていった。
箱には手紙が添えてあった。
俺は周りに人がいない事を確認して、手紙を開いた。
手紙と小箱か。
あまりいい思い出はない。
手紙には、力強い元気な字でメッセージが添えられていた。
「これ、今年は渡せてなかったからから」
箱を開けると、小瓶型のチョコレートが入っていた。手作りかな? 製品の箱ではないみたいだ。
チョコをかじると、日本酒が出てきた。
日本酒ボンボン。
「……俺は未成年だっつーの(笑)」
あぁ。
今年は、紫乃にお返ししてなかったや。
最後のバレンタイン。
もらえないままだった。
ホワイトデーのお返しは、どこにすれば良いのかな。こっちには紫乃の墓はないし、どこにすればいいのか分からないや。
せめて、柚乃には何かお返ししないと。
考えてみれば、柚乃の好みが分からない。
幼馴染だけに、いまさら聞きづらいし。元飯塚くんに会った時に聞いておけばよかった。
カバンを肩に掛けて通学路を帰る。
もう葉桜も終わって、桜は変わり映えのない、ただの木々になっていた。
カマかけたときの、あの態度。
陸はきっと、絢香のことが好きなのだろう。
絢香はどうだろう。
でも、想いをぶつける相手がいるのは幸せなことだ。
俺はどうだろう。
誰か好きなのかな。
花鈴かな。七瀬かな。ことりかな。
でも、みんな同時に幸せにはできないよなぁ。
1人を幸せにするだけでも難しいのに。
そんなことを考えていたせいか、程なく、ことり先生の家についた。
一瞬、ためらったが、玄関前にいても迷惑そうなので中に入る。
カチャ……。
鍵をさしてドアノブを回した。
女性の一人暮らしの部屋だ。
なんだか、企画もののドッキリみたいで、少し緊張する。
すると、家主が不在でも、ことり先生の優しい匂いがした。
電気をつけると、部屋はキレイだった。
普段から整理整頓しているようだ。
先生が来るまでどうしよう。
うーん……。
そういえば、先生から言われたんだ。
「あのね。先生の部屋で自由にしていていいけれど、ベッドの横にある引き出しだけは開けないでね♡」
ベッド横の引き出し。それは、寝ながらすぐ手が届く場所。先生、ずっとご無沙汰と言ってたし、年頃の女性がそんな場所に隠すと言えば……。
卑猥なグッズとしか思えないのだけれど、俺の発想が貧困すぎるのだろうか。
さて。先生のせいで、引き出しは、もはやこの部屋の中で一番気になるスペースになってしまった。
うーん。気になる。
覗くだけならいいかな?
でも、極太棒とかが入ってたら、俺は敗北感だ泣いてしまうかも知れない。
ベッドもキチンと整えられている。
今朝、先生がここに寝てたのか。
引き出し開けないから、少しくらい良いよね?
枕に顔を埋めると、先生の匂いがした。
なんか落ち着く……。
ん。
いつのまにか、寝てしまったらしい。
くちゅ。
唇に何か触れた気がした。
目を開けると、先生の顔が目の前にあった。
目が合うと先生は唇の周りをペロッと舐めて言った。
「うふふ。かわいい寝顔♡」
「先生、俺に何かしましたか?」
「内緒♡」
なんだか、とても。
唇に喪失感があるのだが。
まあ、野郎のファーストキスなんて、残していても何の価値もないか。
「内緒といえば、先生。引き出しの中は何だったんですか?」
「え。見てないの?」
おいおい。
見るなって言ったのは、アンタだろう。
「見てないです。見るなって言われたし」
すると、先生は少しつまらなそうな顔をした。
「そこは、女の子の秘密です」
「大人のオモチャ入れてるんですか?」
「へ、へんたいっ。ホントは見たんですねっ!!」
なにこの白々しい反応。
あー、この人。本当は見られたかったのかな。その後の対応も含めてプレイ的な?
つきあってあげたいところだが、残念なことに、特殊な性癖すぎて、相手の望む模範解答が分からない。
先生は頬を赤らめると、ボソボソと言った。
「あの。その。先生の弱みを握って、『目の前で使って見せろ』とか、いうんでしょ?」
おいおい。
このゲーム、オートモードなのかよ。
俺は何も答えていないのに、最悪な方向に勝手にシナリオが進んでいくのだが。
そしてどうやら、先生は陵辱プレイが好きらしい。
先生の目はトロンとしている。勝手に欲情してないか。この人。
先生は、はぁはぁと息を荒げている。
やはり、少しくらいは、つきあってあげるか。
俺は先生の目を見つめていった。
「ことり。お前……、ドMだろ?」