第33話 いざ、雨宮神社へ。
早速、指名された神社に向かうことになった。
道すがら、花鈴が状況を説明してくれた。
「光希、あの子は桜良といってボクの中学のクラスメートで神社の娘なんだ。あと、教会の娘の藍紗という子と3人で、日々、魔女と神々の聖戦を繰りひろげていた」
へぇ。
ラグナロクみたいで、ちょっとかっこいいかも。
「ふーん。聖戦ってどんなことをしてたの?」
花鈴は口元を綻ばせ、得意そうに言った。
「ふふっ。日々、一緒に体育で柔軟体操をしたり、水泳で競争をしたり、お弁当を一緒に食べたりだ!!」
魔女のラグナロクは随分と平和的だな。
中学時代の花鈴に、昼ごはん食べてくれる友達が居たようでよかった。
「あぁ、要は、お友達なのね」
「ちがうっ。魔女が神の陣営と通じることなどないっ!!」
どうやら、親友らしい。
「それで、花鈴はなんで神社を怖がってるの?」
「そ、それは……」
花鈴はあまり言いたがらなかったが、どうやら、神社の娘に騙されて、しばらくの間、巫女修行をさせられていたらしい。
しかも、その後は、巫女修行がご両親にバレて、年単位のお小遣い抜きになった、ということだった。
花鈴は口を尖らせて話している。
「あ、あいつら酷いんだぞ。書類にサインしたら、複写式の三枚綴りになっていてだな、二枚目が入信願い、三枚目が巫女修行申込書だったんだぞっ!! 魔女を騙して入信させるとか人でなしすぎる。お、思い出しただけでも武者震いが……」
武者震いというより、恐怖に震える子猫のように見えるのだが。
「それは災難だったな」
「そ、そうなの。それなのに、桜良は笑顔で、あなたのためになれて嬉しい、とか言っているのだぞ? もはや、意思疎通不可。鬼や悪魔より恐ろしい……」
それはそれは……。
雨宮神社につくと、鳥居の外に可愛らしい女の子がいた。花鈴の話など、にわかには信じられないような、優しそうな子だ。
その子はこちらに駆けてくると、花鈴に抱きついた。
「かりんーっ。会いたかったよぉ♡ なんで、何千回もメッセージ送ってるのに。いつも無視するのさ」
どうやら、相手は花鈴を大好きらしい。
当の花鈴は逃げ回っている。
花鈴は俺の背中に隠れた。
「神の手先めっ。と、鳥居はぜーったいに通らぬからな」
って、ほんと、どんだけ怖い目にあったんだか。
桜良は言った。
「大丈夫♡、今日は神社の外での修行だよ。なので、女の子2人は、これを着てね。名付けて、対魔特選装備:深淵の巫女服」
なんだか厨二病な名前の服だな。
魔女が対魔してどうすんの、という気もするし。
「桜良さん、俺は飯塚光希っていいます。この巫女服、なにか特別な力があるんですか? 見た目は普通の服ですが」
桜良さんは目を細めるながら、俺のことを値踏みするように見た。
「ふぅん。貴方が光希さんですね。たしかに、呪いでがんじ絡めだわ。祓ってしまってもいいのだけれど、それも貴方のためにならなそうですね」
桜良は、15歳とは思えない身体……いや、佇まいで、大人びている。
「呪い?」
たしか、前に花鈴も同じようなことを言っていたな。
「呪いというより、鎖に近いかしら。さしあたりは、花鈴が居れば大丈夫そうですね」
桜良はウィンクした。
そして、俺の襟元を嗅ぐような仕草をすると、丁寧にお辞儀をして挨拶してくれた。
「花鈴がお世話になってます。えっと、これは、ただの巫女服ですね。まぁ、深淵とかそれっぽい名前をつけておけば、花鈴が興味をもってくれるので」
花鈴の方を見ると、巫女服を眺めて、なにかぶつぶつ言っていた。
「深淵の……ほほぅ。いかにも魔女っぽい衣服だ。試着してその術式を盗むのも、また一興」
巫女服に興味津々なご様子だ。
たしかに花鈴はちょろい。
すると桜良さんは、俺の手を握ってきた。
花鈴が目をまん丸にする。
「桜良、光希にさわるなっ」
「わたし、この人気に入っちゃった♡ 結婚しちゃおうかな。ね、光希さん。どう? わたしのこと欲しくない?」
桜良と目が合う。
黒髪で奥二重の少女。
花鈴と同い年とは思えない、たわわに実ったバスト。ぷるんとして、少しあつぼったい唇。顔は可愛いというより、大人びていて美しい。
初対面の美人にプロポーズされるとか、男としては夢のシチュエーションだ。
「ダメっ!! 光希も鼻の下のばすな」
花鈴は半べそだった。
その様子をみて、冗談っぽい表情で桜良はいった。
「冗談のつもりだったけど、この人、良い匂いだし。光希さんと結婚すれば、花鈴とも親族かあ。結構いいかも♡」
花鈴はプルプルしている。
「光希の浮気ものっ。よりによって巫女に手を出すなんて、チン先をぶっ飛ばしてやるんだからああ」
いや、浮気も何も、桜良さんとは初対面なのだが。それに、吹っ飛ばしたら、いずれ、お前も困るのでは?
まあ、それはさておき。
「桜良さん、花鈴で遊んでないで、そろそろ話を先に進めてくれませんか?」