第27話 柚乃は花鈴に負けたくない。
柚乃にムカつきながらも、花鈴のお弁当を食べる。
どうもこいつの文字列弁当は、食欲わかないよな。でも、玉子焼きもウィンナーも、ハロウィンのお菓子のように可愛く盛り付けられていて、手間はかけてくれている。
花鈴を悪く言われて、あんなに腹が立つのって。やっぱり、俺、花鈴のこと好きなのか?
ないない。
きっと、妹みたいで可愛いだけだ。
その日は、柚乃は一言も話しかけて来なかった。さすがの翔も気づいたらしく、「柚乃、生理なのか?」と俺に聞いてきた。
間違っても、同じことを柚乃に言って燃料投下しないで欲しい。
家に帰ると、柚乃から「さっきはゴメン」とメッセージが来た。なんでも、お詫びに明日は、柚乃がお弁当を作ってくれるらしい。
元飯塚君だったら、喜ぶだろうな。
お礼を言って、明日は柚乃のご馳走になることにした。
花鈴に明日の弁当は要らないって言っとかないと。
「花鈴、明日のお弁当は要ら……」
すると、花鈴の目がうるうるしだした。
「ボクのお弁当、……迷惑?」
「そんなことないよ」
ほんきで嬉しいのだ。
いつも、早起きして作ってくれる。
花鈴は母さんにも気に入られいるのに、お弁当で更にポイントアップらしい。
この前「花鈴ちゃん、本当にいい子よね。お弁当、一生懸命つくってるわよ。あんたも気に入ってるなら結婚したら? そうしたら、嫁姑問題も起きないし。孫も早く見れそうね♪」と言われた。
うーん。
前俺の母さんは、紫乃と結婚する前に亡くなった。花鈴と結婚したら、孫を抱かせてあげられるのかな……。
でも、一年経ったら、おれ自身もどうなるか分からないし。もし、俺が消えちゃったりしたら、残された花鈴が可哀想だし。
花鈴に聞いてみることにした。
「花鈴。俺が居なくなったらどうする?」
すると、花鈴は普通に答えた。
「ボクも死ぬけど」
……。
冗談に聞こえない。
愛が重すぎる。
すると、花鈴がニコニコしながら言った。
「まぁ、赤ちゃんいたら死なないかな♡」
孕ませろという、暗黙のプレッシャーか?
母さんは、普通に喜びそうで怖い。
やっぱ、花鈴のお弁当も食べたいかも。
「ごめん、明日もお弁当お願い」
すると、花鈴は笑顔になった。
「らじゃー♡」
「そういえば、今日のタコウィンナーの額に五芒星がついてたんだけど、あれなに?」
「あれはね。ボクの自信作のエンチャント・タコウィンナー♡。食べると光希の精力が5倍に増強されて、赤ちゃんできやすくなるの。もし、他の雌が食べると、タコウィンナーさんは、瞬時に、毒タコウィンナーにジョブチェンジして、敵を抹殺するのだ。はっはっは」
はっはっはって……。
毒って。こえー……。
誰にもあげないようにしないと。
っていうか、ここ数日。
花鈴と寝てると、やけにムラムラするのは、お前の仕業だったか!!
ロリコンになったのかと思って、実は凹んでたんだぞっ。おれの傷ついたメンタルどうしてくれるんだ。
「ちょっと聞きたいんだけど、ご懐妊率はどれくらいあがるの?」
「軽く千倍かな」
千倍って、ほぼ百発百中じゃないか?
ほんとにこいつは。
油断も隙もない。
「しばらくは2人で楽しみたいから、赤ちゃんは、その後がいいかな」
そういうと、花鈴は嬉しそうに頷いた。
うんうん。
花鈴は今日もちょろい。
次の日は、運動部でもないのに朝弁した。
タコウィンナーを観察すると、やはり謎の五芒星がついている。
(こんなに食べて、昼に腹減るかな)
でも、意外にも昼にはお腹がすいた。人間とは、悩み多くとも腹が減るものらしい。
昼休みになり、屋上に行く。すると、柚乃はベンチに座っていた。
俺に気づくと柚乃は頭を下げた。
「ひどいこと言ってごめんなさい。花鈴ちゃんにも謝らないと……」
「いや。いいよ。でも、どうしてあんなこと言ったの?」
沈黙が訪れる。
柚乃はチラッと俺をみると、口を開いた。
「……嫉妬……かな」
「だって、お前、俺のことフッたじゃん」
「あれは、手違いっていうか……」
手違いでフラれるとか、ちょっと斬新かもしれない。俺との恋愛は、なにかの手続きなのか?
「ふーん。まぁ、いいや」
ゴメン。元飯塚君。
俺は君ほどは、柚乃を好きじゃないんだと思う。ここに来たばかりの時は、助けられたし恩義は感じているけれど。
花鈴やことり先生みたいに、一緒にいてもドキドキしない。
でも、一年経って、もし元飯塚君と入れ替わったら、柚乃と絶縁してたら可哀想だよな。
「わかった。いいよ。俺も気にしないようにする」
「うん。あの、これお弁当……。玉子焼きなんだけど、光希は好きかな?」
「ああ」
玉子焼きかあ。
昔、紫乃がよく作ってくれたな。
大きめに切られた玉子焼きを箸で強く摘む。
すると、ブリッと切れて中から出汁が出てきた。
口に入れると懐かしい味がした。
紫乃の味に似てる。
「紫乃?」
しまった。
つい、口から言葉が出てしまった。
柚乃のやつ、また不機嫌になるのかな。
すると、柚乃は俺の方を覗き込んだ。
「前もその名前呼んでたよね」
「あぁ。ごめん」
「……大切な人なの?」
「あぁ。一番な」
「ふぅん。そっか」
柚乃は立ち上がって、手を後ろで握り合わさせると、身体を左右に揺すった。
「まあ、もう会えないんだけどな」
「寂しいよね」
「そうだな」
「紫乃さんは、花鈴ちゃんより大切?」
「そうだな。まあ、比較するものでもないけど」
すると、柚乃は何故か口を綻ばせた。
「ふぅん。そっかそっか♡」
なんで柚乃が嬉しそうなのかは分からない。だけれど、元飯塚君の好きな子と仲直りできたようで良かった。