第22話 夜の営み。
家に帰って、ベッドに倒れ込む。
すると、愛すべき我が従姉妹っ子が布団の中から、ぴょこっと出てきた。
ご丁寧なことに、魔女っぽい部屋着になっている。花鈴は俺に抱き付きながら言った。
「汝の悩みを申してみよ♡」
ダメ元でこいつに頼んでみるか。
紫乃の秘薬みたいな大魔術もあるのだ。俺を賢くするくらい、簡単なことだろう。
「あのな。俺、勉強できるようになりたいんだけど、簡単に魔法でなんとかならんの? ちちんぷいって。それかお前が勉強教えてくれてもいいけど」
「うーむ。その秘術のためには、ボクをもっと愛することが必要じゃの……。それに毎日、ボクにショートケーキを捧げる必要もある」
「太ったら、愛は低下すると思うけど」
すると、花鈴はむくれた。
「ルッキズムは良くないぞ……」
なるほど。
愛が贄とは。
俺は気づいた。
魔術で賢くなれるのなら、当然、花鈴は抜群に勉強ができるんだよな?
でも、雑誌で金運上昇グッズを売っているオジサンとかって、大概、本人は貧乏そうなのだが。
念の為、確認してみるか。
「お前さ。そんな魔術があるなら、当然、お前自身はハンパなく勉強できるんだよな?」
すると、花鈴は横をむいて口笛を吹いた。
「成績の順位、何位なんだよ」
「小さきものよ。つまらぬことにこだわるでない……」
お前、俺よりチビだろ。
俺は、ことり先生が、花鈴のクラスで成績表が配られたという話をしていたことを思い出した。
俺は、部屋の端にあった花鈴の通学リュックにロックオンした。敵国の機密情報は、すぐ目前だ。
危険を察知して追いすがる花鈴を振り切って、カバンをあけた。そして、成績表を確認する。
すると、衝撃的な資料が出土した。
「クラス順位 49/50」
ほぼビリじゃないかよ。
「花鈴、お前、この不吉な暗号はなんだよ。ダウンロードの%表示か? あ、ここからが長いんだよな。最後の1%が」
花鈴は涙目になった。
「仕方ないじゃん。ボクは、高度な魔術演算で、常に魔術演算領域を占有されてるから……」
つまり、こいつはやすやすと魔術の存在を認めたわけか。脳味噌のリソースを占有されてるというより、キャパ不足な気がするぞ。
まぁ、とにかくこいつはダメだ。
成績アップの役にはたたん。
それはそれで、チョロくて可愛いからいいんだけど。
それにしても、死苦《4 9》位……か。
「49って数字を選ぶとか、お前、魔女力高すぎだろ」
「それ、嫌味? ひっく……、おにーさまがイジメる」
花鈴は泣いた。
あ、もう一つ頼みたいことがあるんだった。
「花鈴さ。お守りみたいなのってないの? あ、魔女は呪い専門か」
「魔女を悪くいうなぁ。ボクみたいな純粋天使もいるんだよっ」
「おまえ、魔女なの?」
「ち、違うけど……」
「じゃあ、天使なの?」
「あんな奴らと一緒にするなっ!!」
花鈴は眉を吊り上げた。
……毎日、からかう相手がいるって幸せかも知れない。俺は花鈴の頭を撫でた。
花鈴は俺の手に被せるように手を添えると、幸せそうな顔をした。
「んで、君はこんどは誰を助けたいんだい?」
「俺の友達がサッカーやってるんだけどさ。そいつを不幸から守ってやるような魔法とかないかなって」
すると、花鈴は俺のエロ本コーナーから分厚い辞書みたいなものを出した。ちょっとのぞいてみると、俺には読めない外国語で、何か図形や文字が書いてあった。
「ふむ。これかな」
花鈴はページをめくる手を止めた。
「あるの?」
「魔女は聖職者じゃないからね。基本、人の怪我を治したり、守ったりは得意じゃないんだよ。でも、不幸を他の物に肩代わりさせることはできる」
花鈴は、俺の引き出しから変な人形を出した。
「これね。不幸を身代わりさせることができるの。心配な人に、これを渡すといいよ」
「お代は? ショートケーキか?」
花鈴は身体を左右に揺すると、モジモジして。
俺に両手をのばした。
「頑張ったご褒美に、ぎゅーして♡」