9 猫の体
猫の体を操って、私は木の上から飛び降りた。
そして、音もなく着地する。
猫の脚ってすごいな。
けっこうな高さだけど、まったく衝撃を感じなかった。
身軽だし、簡単にバク転できてしまう。
人間だった頃と比べても運動性能が段違いだ。
【解析】っちにスキルを調べてもらうと、【着地術】と【アクロバット】を習得していた。
これは、私のスキル一覧にはないヤツだね。
【宿主支配】を使えば宿主のスキルも使えるってことか。
便利だな。
いやあ、しっかし、猫の体は本当に軽いなあ。
ダニよりずっと速く動ける。
これなら、人間探しも捗りそうだ。
鳥に寄生し直して空から探すのも手だけど、飛ぶのはちょっと自信ないな。
猫モードでしばらく暮らしてみるか。
うおお、もふもふな自分の体、たまらん。
体やわらかー。
自分のお尻を嗅げるんですけど。
……香ばしい匂いがする。
なんだか新しい性癖に目覚めてしまいそうだな。
ほどほどにしておこう。
そういえば、私は今、戦闘系スキルを使えるのだろうか。
【解析】は使えたけど。
さすがに、着地とアクロバティックな動きだけで生きていけるほど異世界の森は優しくないぞ?
私は空中で一回転して尻尾の鎌を振り抜いた。
【かまいたち】っと。
ビュオォ――――ッ!!
おっ、出た出た、真空の刃。
甲高い風切り音とともに飛んでいく。
ビンゴ!!
狙い通りに、木の幹に命中した。
命中して……あっ。
突き抜けていった。
突き抜けて、後ろにある木々に斜線を引いた。
ズリズリズリ、バキバキ。
――――ドシーン。
ドド、ドーン。
斜線より上が滑り落ちて、オレンジの空が広がった。
マジか。
破壊力ヤバすぎないか、これ!?
さ、さすが本家本元の【かまいたち】だ。
威力が違うな。
少し練習したら岩でも斬れそうだ。
いや、それにしても強すぎない!?
まだ子猫だよね、この体。
この子のレベル、今いくつよ!?
おい、【解析】!
『種族レベル【Lv.33】。レベル反映率【33%】』
Lv.33……!?
寄生する前はLv.1だったはずだけど。
あー、なるほど。
レベル反映率か。
私のレベルは100だから、その33%で33レベってことだな。
寄生者のレベルが宿主にも反映される仕組みなんだね。
森で暮らしているうちに何度も魔物と出くわした。
でも、Lv.10を超えるのはほんのひと握りだけだった。
Lv.33の猫って、実はかなり強いのでは?
我が物顔で森を闊歩しても大丈夫そうだね。
なんだか強くなった気分だ。
ところで、寄生している間、私の本体はどうなっているんだろう?
本体の感覚がないからイマイチわからない。
今も首の裏に吸いついているんだよね?
体をよじってみる。
……うーん、さすがの猫ボディーでも首の後ろは見えないか。
お腹が減っている感じはしないんだよな。
たまに、本体に戻って血を吸っておけば餓死しないだろう。
【飢餓耐性】もあることだし。
それより、うっかり潰さないように注意しておかないとな。
じゃ、人間探しを再開しますか!
――――ッ!!
……ォ!!
おおっとぉ、これはぁ?
遠くから聞き慣れない音が聞こえてくる。
自然の音じゃないな。
金属がぶつかり合うような音だ。
それから、……悲鳴?
金属というと人工物じゃないか。
これは、人間の予感!!
私はエサを嗅ぎつけた犬みたいに駆け出した。
日が沈んで暗くなった森を【樹上歩行】と【敏捷】で稲妻みたいに突っ切り、現場に急行。
斜面から張り出した枯れ木にストンと着地し、私は目を見開いた。
街道だ。
右から左に道が伸びている。
道端には馬車が横倒しになっていた。
その周りで右往左往しているのは、……おおっ!
人間!
人間様じゃないか!
いっぱいいる。
20人くらい!?
みんな血相変えてギャーギャー騒いでいる。
剣を持っている奴とか弓を構えている奴までいる。
血を流して動かない奴も。
ええっと、んー、……時代劇の撮影?
でも、血の匂いは本物だしな。
状況を客観的に見て評するとだな、あー。
行商人の馬車を襲う山賊一味って感じ?
ニャハアァ……。
私は重たい息を吐き出した。
嘘だろ。
転生先の時代感が中世なのはこの際置いとくとして、だ。
ようやく出会えた第一村人がよりによって山賊かよ。
どこの世界でも人間って愚かなんだなぁ。
協力したほうが得なのに、どうして醜く争うんだろうねえ。
奴ら、ダニにも見下されてやがるよ。
浅ましい。
「……・! #+%$…………!」
「+>?! &&%#・・……!?」
何語だろう?
知らない言語だな。
語感はドイツ語に似ていて、英語っぽさも感じる。
異世界語だから、私には何を言っているのかサッパリだ。
【解析】で翻訳できるかやってみよう。
「;:・……! ……h#=……ろ!」
「山賊団『赤犬』だ! 逃げろ!」
あっ、できた。
すごいな、【解析】って。
未知の言語まで読み解けるのか。
もしかして、かなりレアなスキルだったりする?
山賊団『赤犬』ね。
ネームド山賊団ということは、それなりに知られた奴らってことか。
実力者もいるかも。
襲われている人たちも善戦しているけど、囲まれて防戦一方だ。
このままじゃジリ貧だな。
……よし、助太刀するか!
困っている人を見過ごせないって、なんだか人間味があるじゃん。
こんなになっても私はまだ人間だ。
その誇りと自負を手放さないためにも見て見ぬ振りはできない。
いっちょ、やってやりますか!
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