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4 フォルムチェンジ


 シックルテールの血を満足するまで吸ってから、私は枯れ草の上に落下した。


 あれ……。

 お腹が膨らみすぎて、地面に脚が届かない。

 身動きできないぞ!?

 どうすりゃいいんだ、これ?

 このまま死ぬのか、私。

 それとも、そのうち縮むのか。

 どっちだ?


 へそ天でぽかーんと青空を眺めていると、急に眠気が兆して意識が遠のいていった。

 ようやく、この悪夢から解放されるのか。

 と思ったが、全然違った。


『種族レベルが一定値に達しました。【幼虫】から【若虫】にフォルムチェンジします』


 そんな文字が頭に浮かんで、私は深い眠りに落ちた。


 ………………。

 …………。

 ……。


 どれだけ眠っていただろう。

 空模様がだいぶ変わっているから、半日は寝ていた気がする。

 私は伸びをして体を起こした。


 うん、ダニのままだ。

 でも、膨らんでいたお腹は引っ込んでいる。


 うおっとぉ!?

 なんじゃこりゃ。


 私は目の前に転がっているダニの残骸を見て口をあんぐりと開いた。

 中身がカラだ。

 抜け殻って感じだな。

 どうも私は寝ている間に脱皮したみたいだ。


 【若虫】だっけか?

 言われてみれば、ちょっと前より体がしっかりした気がする。

 ひと回り大きくなっているし。

 それに、安定感も増しているような。


 ……それもそのはず。

 私の脚は8本になっていた。


 ダニって幼虫のときは6本脚で成長すると8本になるんだよな。

 今、私はダニ年齢で中学生くらいのお年頃ってところか。

 成長の早さを喜ぶべきか、老い先の短さを嘆くべきか。

 どっちでもいいか。


 腹減った。

 細かいことがどうでもよくなるくらい空腹だ。

 動物探そう、動物。

 ちょっと血を分けてもらわないとな。


 風に意識を向けると、たくさんの匂いが私の中に流れ込んできた。

 すごい情報量だ。

 まるで何百本もの映画と何千曲もの音楽を同時に脳内で流しているみたいな。

 どこにどんな動物がいて何をしているのか、目をつむっていてもわかる。


 ただ、ちょっと遠いなあ。

 人間の足なら数歩の距離も、ダニには大砂漠だ。

 獣道を探して獲物が通るのを気長に待つか。

 たぶん、これがダニの基本スタイルだし、ね。


 というわけで、獣の匂いが強い草むらに陣取る。

 考えることはみんな同じらしく、葉っぱの上でノミを見つけた。

 血吸い友達だ。


 よぉよぉ、実に見事な後ろ脚だねえ。

 おら、ちょっと跳んでみろよオラオラ。


 後ろからド突くと、ノミはバッタみたいにびょーんと跳んだ。

 すっごいな。

 体感50メートルくらい跳んでいる。


 ちょっと張り合いたくなって、私も8本脚にこれでもかってくらい力を込めてみた。

 スキル【敏捷】発動――!!

 私の体は尻を叩かれた弾丸みたいに急加速した。

 反った葉先をジャンプ台にしてピューンと大空に飛び上がる。

 100メートルくらいすっ飛んで、木の幹に突っ込んだ。


 どうだ、見たか?

 私のほうが50メートルくらい遠くまで飛べたぞ。

 余裕のK点越えだ、ワハハ。

 やっぱダニだな。

 ノミなんて時代がね、遅れてんだよねウンウン。


 いやまあ、どんぐりの背比べだけどね。

 人間目線だとせいぜい1メートルってところだ。

 でも、これだけ動けるならお腹すかせて待っているのは馬鹿馬鹿しいな。

 やっぱ動くか。


 とりあえず、この木を登ってみよう。

 依然として、ここはどこ状態だからな。

 見晴らしのいいところから周囲を見渡してみたい。


 そんなわけで、木を登り始めた私である。

 なーんか妙な気配を感じるなと思って振り返ると、……おわあああ!?

 巨大なクモが私の後ろをぴったり追いかけてきていた。


 クモってダニを食うのか!?

 つか、こいつ、足速いな。

 巣を張らずに、足で稼ぐタイプか。

 だが、相手が悪かったな。

 私のほうが3倍は速いよ。


 スキル【敏捷】で一気に加速する。

 ……が、私は慌ててブレーキをかけた。

 前方に白い壁が見える。

 サッカーのゴールネットをより密にしたような、そんな壁だ。


 あれ、クモの糸だな。

 なるほど、なるほど。

 獲物を追いかけて、巣に追い込む作戦か。

 まんまとハマってしまった。

 なかなか巧みな狩りをする奴だな。


 感心している場合じゃなかった、ヤバイ!

 クモがもうすぐ後ろに迫っている。

 無理やり乗り越えようかと思ったが、やめた。

 すでに、何匹か絡め取られて屍をさらしている。


 これはもう諦めるしかないな。

 私の負けだ。

 どうぞ好きなところから食ってくれ。


 巨大グモは前脚から糸のネットを伸ばして私を捕らえようとする。

 腐っても元・人間だ。

 サムライの末裔だ。

 無駄な抵抗はしない。

 最期は潔く散ってやろう!

 さあ、来い!


 ……と見せかけて、【かまいたち】!!


 私は短い前脚を全力で振り下ろした。

 突風が駆け抜けた。

 クモの恐ろしい顔が目の前でピタリと止まる。

 そして、ビシッ、と。

 体の正中線に亀裂が走った。

 そこから左右に分かれてクモは遥か下へと落ちていったのであった。


 やったぜ。

 初めてだったけど、うまくいったな。

 猫のスキルだもんな。

 さすがのクモ公でも太刀打ちできないよな。


『種族レベルが上がりました。【Lv.27>Lv.36】』


 順調順調。

 この分だとすぐに【成虫】にクラスアップできるな。

 できたからなんだって話だけど。


 血を吸わなくてもレベルは上がったけど、クモのスキルは手に入らなかったな。

 やっぱり吸血が獲得条件みたいだ。


 あの強力な粘着糸は魅力的だけど、クモかぁ。

 全然まったく美味しそうに見えなかったな。

 私の専門は鳥類と哺乳類だからね。

 普通に無理だし、あれを吸うのは御免こうむる。

 諦めるか。


 さっ、気を取り直して、木登り再開だ。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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