38 再スタート
はああ…………。
私は気門から盛大にため息を吐き出した。
見てくれよ、この姿。
ダニだぜ、ダニ。
どこからどう見てもちっぽけで惨めなダニだ。
病気を媒介する害虫として忌み嫌われ、昆虫からも仲間はずれにされる可哀想な生き物だよ。
なんだよ、このテントウムシ体型。
ダルマにプロポーションで負けるJK、私くらいのものだぞ。
え、丸っとしているほうが可愛い?
黙れ、くそシャラップぼけエエ!
丸すぎなんだよ!
限度考えろやオラ!
血ィ吸うと腹パンパンに膨れて動けなくなる仕様もなんとかしろやウラア!
ハアハア……。
8本脚で地団駄を踏み、肩で息……ならぬ尻で青息吐息する私である。
取り乱してすまない。
怒りの波が引いていくと、今度は虚しさが押し寄せてきた。
上を見上げりゃ、巨人が長い脚で私をまたいでいくのが見える。
しばらく人間として暮らしていたから忘れかけていたけど、私ってつくづくダニなんだね。
あんなに泣いてくれた仲間たちも私の存在に気づきもしない。
後ろ脚で立ち上がって、おーいおいーいと6本脚を振ってみても、やっぱり誰も気づかない。
どうせ私ゃ無様に地を這うしかない虫ケラさ。
あーああー……。
今、ちょうどレオが真上を通り過ぎていったところだ。
圧倒的大股ですぐに見えなくなる。
町に戻るのだろう。
私を置いて。
私は命懸けで頑張った。
頑張ったのに何も残らなかった。
すべてを失った。
仲間たちにすら見向きもされず、暗い森に置き去りだ。
つまり、それがダニの一生なのさ。
取るに足らない雑魚虫の最後なのさ。
あーああ。
今ならちょっとはアルナマガルの気持ちがわかるよ。
悲しいねえ。
私は石……というか、砂粒だと思うけど、とにかく積み上げて墓を築いた。
アルナマガルと、それからガルススの墓だ。
あいつはクソがつくほどの悪党だったけど、最後は人の役に立って死んだからね。
墓くらい作ってやらないと。
花も供えてやりたいけど、私目線じゃどんな花も観覧車みたいに大きい。
この砂粒の墓で勘弁してくれ。
レオたちも墓を作ったらしい。
エベレスト並みにデカイ立派な墓だった。
手の込んだことに周りには花が植えられている。
月の光に淡く光る綺麗な花が。
土に手跡がたくさん残されていた。
スコップもないから、手作業で植えたみたいだ。
……ん?
岩に何か刻んである。
私は小さな体で巨大な文字を一文字ずつたどっていった。
『高潔なる騎士アルナマガル、この地に眠る。最強の戦士ダニエルとともに』
ポッと。
胸に火が灯った。
冷めていた心がほのかに熱を帯びていく。
すべてを失った、か。
そんなことはないな。
得たものもあった。
仲間との絆だ。
月並みだけど、私にはそれで十分だ。
それに、思い出もできた。
殴り合いなんてしたの初めてだったな。
喧嘩ギャンブルもけっこう燃えた。
異世界の焼き鳥は絶品だったなぁ。
王族の酒も最高にうまかった。
フリッシ君はスーパー爽やかで、プガーロは狼相手に絶叫芸。
ルヴィちゃんは優しかったし、スウィーテ先輩もまあまあいい人だった。
なにより、レオだな。
起きているときはずっとガルルルと誰彼構わず威嚇するような子だったけど、こっそり私のベッドに潜り込んで腕枕をせがんじゃう可愛いところもあった。
エンドレス稽古も今になって思えば、いい思い出だ。
一寸の虫にも五分の魂。
足掻いて藻掻けば残せるものも確かにあるのだ。
曲げるヘソもないことだし、前を向きますか。
くよくよしていられるほど、ダニの一生は長くない。
新しい肉体を探す旅に出ないとな。
猫も悪かないけど、やっぱ人間がいいな。
いるかな、どこかに美少女山賊?
人生を奪ってもいい人間なんてそうそういないよなぁ。
また、地道にスキルでも集めるかな。
この世界には『魔鎧』みたいなバケモノもいるわけだし。
天寿をまっとうするためにも私は最強のダニにならないとね。
血吸って、乗っ取って、強くなっていこう。
私の冒険はこれからだ!!
……なんてな。
そんな感じで、私は夜の森を歩き始めたのだった。
これにて完結です!
読んでくださった皆様、ありがとうございました!
最後に下の★★★★★から『評価』をいただけると嬉しいです!
お疲れ様でした!