35 開戦
「【解析】する!」
私は『魔鎧』を鋭く睨みつけた。
頭の中に文字が……ってあれ?
『種z。名;sllsれあfぇwLv.hk』
文字化け……!?
こんなの初めてだ。
どうしたんだ、解析くん?
『【解析阻害】を受けています。』
解析阻害……!?
それ、間違いなくスキルだよな。
【暗黒操作】と【石化の魔眼】だけでなく3つ目のスキルまで持っているのか。
「……」
「………………」
「…………」
ジーっとフリッシ君とプガーロ、それから、うちのレオが私に熱い視線を送ってくる。
苦笑するしかないね。
「解析無効化スキルを使っているらしい」
「3つ目のスキルですか!?」
フリッシ君は目を丸くした。
1つ持っているだけでも珍しいスキルを2つどころか3つも持っているんだもんな。
「で、このまま続行でいいよね?」
「計画に変更はありません。皆さん、配置についてください」
全員が素早く散開した。
まずは、魔法による先制飽和爆撃だ。
私は隣にいるプガーロの小脇をつついた。
「おいプー、腰が引けているんじゃないか?」
「馬鹿言え。むしろ前のめりすぎて転んじまわないか心配してるところだァ」
プガーロは白い歯を月光に輝かせた。
「それに、怖ェのは戦士の証なんだろ?」
「ま、そういうことだ。だよね、レオ」
「そうよ! だから、あたしは今、最強の戦士だわ!」
誇らしげに胸を張るレオからは恐怖心の「きょ」の字も見て取れない。
羨ましい性格だよ、あんた。
私はというと、ほどよくドキドキしている。
「今夜だァ。奴との因縁にケリをつけてやるぜェ」
プガーロの決意表明に呼応するように、ホー、ホー、とふくろうの鳴き声が響いた。
飽和攻撃の合図だ。
私は5回目のホーに合わせて【かまいたち】を撃ち出した。
隣でスクロールが火を噴き、向こうの茂みでも閃光が走り雷鳴が轟く。
魔法による十字砲火だ。
各属性の魔法で薄暗い森が光の祭典とばかりに七色に彩られた。
間断なく爆音が轟き、飛び散った砂や石が雨となって降ってくる。
こんなの生身の人間が浴びたらミンチじゃすまないな。
すべてのスクロールを使い終える頃には、森だったところは広場になっていた。
「やったか?」
誰かが要らないフラグを立てた。
土煙が晴れる。
そこには、依然として『魔鎧』が直立していた。
砂をかぶってはいるものの、ダメージが入ったようには見えない。
体の周りを黒い影のようなものが覆っている。
【暗黒操作】か。
闇の盾で攻撃をやり過ごしたらしい。
想像以上の堅さだな。
「坊主、手下どもを連れて馬車の位置まで退けェ! いちおう、いつでも逃げられるようにしておけよ!」
プガーロが向かいの茂みに声を投げかけた。
「承知しました! プガーロさん、ダニエルさん、健闘を祈ります!」
フリッシ君たちが後退を始める。
それに合わせて、私たちは前に出た。
「いい感じに広くなったわね!」
「暴れたい放題だァ!」
「それじゃあ、行こうか!」
第2ラウンド開始だ。
◇
私は剣を抜き、刃の先から【かまいたち】を放った。
真空の刃はしかし、闇の盾に阻まれる。
「らアアアッ!!」
レオが煌々と輝く【獣牙】を振り抜いた。
これも漆黒の盾に浅い傷をつけただけだった。
「足を止めるなァ! 動き続けろ! 【閃烈斬】の的になるぞ!」
プガーロの警告が終わらないうちに、『魔鎧』は地面に剣を突き刺した。
「来るぞ――ォ!!」
その瞬間、私のすぐ横を特急列車みたいな風圧が通り過ぎた。
【閃烈斬】か。
速い。
まったく見えなかった。
直撃を食らった木が割り箸みたいに裂ける。
ひええ……ッ。
「【かまいたち】Lv.100って感じだな!」
「だが、【閃烈斬】は攻撃前に予兆があんだろォ!」
地面に剣をつけること、か。
それが発動条件なんだろう。
私たちは『魔鎧』の周りを旋回するように走った。
カ――ッ。
鉄兜の内側が赤く光ったように見えた。
「あ……」
小さな悲鳴の後でレオが足を止めた。
その目が瞬きもなしに『魔鎧』を見ていた。
魂を抜かれたみたいに、ぼーっと。
見ちゃったか、目を。
『魔鎧』の剣が地面に線を引く。
「嬢ちゃんがヤベェ!!」
プガーロがガントレットを振るった。
しかし、闇の衣は衝撃のすべてを吸収する。
そして、【閃烈斬】が来る。
私は【闇夜纏】でレオの視界を遮りつつ、間に割って入った。
あとは、度胸だ!
「奇剣【流】――ッ!!」
斬撃は見えなかった。
しかし、私の振った剣に確かな手応えがあった。
ギィィン、と鈍い音がして斬撃が向きを変える。
「レオ!」
「もう大丈夫! ダニー、助かったわ!」
「おうよ!」
しかし、クソ厄介だな……。
【暗黒操作】の盾形態が堅すぎる。
こちらの攻撃がまったく通らない。
『魔鎧』は安全な盾の内側から【石化の魔眼】と【閃烈斬】でやりたい放題だ。
200名以上の冒険者を葬っただけのことはあるな。
「攻撃の手を緩めんな! ヤベエのは攻撃形態のほうだァ!」
こちらの手が止まった一瞬の隙を突くように、闇の盾が消えた。
そして、地面を突き破って闇の剣がタケノコみたいに生えてきた。
ビッ!!
黒い刃が私の左脚をかすめた。
怪我はない。
破れたポケットから砥石やら光の魔石やらが転がり落ちただけだ。
「む? ……光の魔石?」
私は懐かしい感覚を思い出した。
これは、あれだね。
絶対に倒せないと思っていたゲームのボスキャラに意外な弱点を見つけたときの感覚だ。
「みんな、ちょっとまぶしいよ!」
私はニヤッと笑って、【かまいたち】を走らせた。
光の魔石が砕けて、一瞬すべてが白に染まる。
まぶしさを堪えて開けた目に、闇の盾が風に吹かれた灰のように霧散していくのが見えた。
しかし、光が弱まると闇は何事もなかったかのように戻ってきた。
なるほど。
奴が昼間に姿を見せなかったのは、これが理由か。
「おうおう! こいつァオレの見間違いかァ?」
プガーロがいつもより悪い顔をしている。
そして、後衛の魔術師に大きな手を振って合図した。
杖の先から打ち上げ花火みたいなものが空に上がる。
それは、太陽のようにまばゆく森を照らした。
光魔法か。
「これで、丸裸だなァ!」
プガーロが弾丸のように突っ込んでいく。
横薙ぎの剣を掻い潜り、太い右手を振り抜いた。
『魔鎧』の胸の中心に、鮮やかに聖拳が炸裂した。
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