34 捜索
のんびりする間もなく、西の森に到着。
何の変哲もない森だ。
カブトムシたくさん獲れそう。
「ヤバイ魔物がいるようには見えないな」
「それが西の森の怖ェところだ」
プガーロは額に汗を浮かべていた。
「油断して舐めてかかる若ェのが大勢食われた。略して、死の森とか言われてんなァ」
思いつく限り最悪の略し方だな。
おっけー了解。
最大限警戒しとくよ。
「では、これより森に入り、『魔鎧』の捜索を行います。いつ『魔鎧』と遭遇するかわかりません。今のうちに持ち場と作戦を確認しておきましょう」
フリッシ君を中心に車座を組む。
「僕としてはなるべくリスクを減らしたい。そこで、『魔鎧』を包囲する形で遠距離魔法による飽和攻撃を仕掛けたいと思っています」
荷馬車に山と積まれた巻物が討伐隊の全員に配られる。
その間、異論は出なかった。
「これで倒しきれればいいのですが」
フリッシ君にチラッと視線を送られ、
「まァ、無理だろうな」
と、プガーロは気のない返事をした。
「では、やはり接近戦ですね。プガーロさんの聖拳をお見舞いする方向で話を進めましょう。我々討伐隊の陣容は計18名です。2名は馬車の管理、2名を連絡役、それから、周辺の魔物対策に4名を割くつもりです。役立たずの僕は後方で指揮を執らせていただきますので、魔鎧攻略に回せるメンツは9名ですね」
「多いなァ。雑魚が群がっても的が増えるだけだァ。流れにもよるが、メインアタッカーはオレと旦那と嬢ちゃんの3人で十分だ。それ以上は邪魔でしかねえ」
「しかし、後衛やヒーラー役は必要でしょう?」
「それも、オレの部下二人で足りるはずだァ」
フリッシ君も作戦をよく練っているのが伝わってくる。
でも、プガーロには経験者だからこその説得力があった。
「ほかのメンツは最初の魔法攻撃で魔力を全部使い切って、とっとと引いてくれたほうが楽だなァ」
「では、そうしましょう。飽和攻撃による奇襲で隙を作り、精鋭部隊が突撃。量と質、どちらもフル活用できるいいプランだと思います。さすがプガーロさんですね!」
「だろォ」
「「よッ、兄貴ィィ! あったまいい!」」
プガーロの奴、木に登りそうな顔してるな。
おだてたら財布の紐も緩くなりそうだし、フリッス商会で高い時計とかポンポン買っちゃいそうだ。
カモにされないよう気をつけろよ?
というわけで、作戦と持ち場が決まった。
近接型のレオとプガーロが前衛。
近距離も遠距離もこなせる私は遊撃手。
プガーロの部下二人が魔法攻撃とヒーラー役を担当。
ついでに、私も酒ヒールで支援するぜ。
忙しそうだな、私。
「それでは、魔鎧捜索を開始します」
いざ、ゆかん!
私はカラの酒瓶をポイした手で鞘を握り込んだ。
森に入ってすぐ、レオが私に幅寄せしてくる。
肘が当たって歩きにくいわけだが?
「なぁに? 怖いのかな、レオにゃんは」
「怖いわ」
「おや、素直だね」
「怖いから腕を磨くの。腕を磨くから強くなれる。銀豹族にとって恐怖は戦士の証なの」
戦闘民族の教えか。
含蓄がある。
私もしっかり恐怖を感じていこう。
油断しなくてすむようにね。
そう思ったのも束の間、
ガサガサ――――ッ!!
茂みを割って狼が飛び出してきた。
「うおおおおお……ッ!??」
プガーロが爆竹を食らった猫みたいに飛び跳ねて、
「おおラアアアアア――ッ!!」
悲鳴をごまかす感じでガントレットを振り抜いた。
狼が赤い霧に変わる。
「ハアハア、ハア……」
肩で息しちゃってるけど、大丈夫かプー。
「ビビってる兄貴もカッコイイなあ!」
「だな! 貫禄が違うぜ!」
「お前ら、うるせえよ!」
ガツンゴツンと部下をしばくプガーロさん。
私はその大きな背中をさすってやった。
「大丈夫だよプー。恐怖は戦士の証だから」
「うるへー」
そんな感じで、肝試しに来た高校生みたいなノリのまま捜索は進んでいった。
一見、緊張感がないように見える。
でも、これはきっと冒険者の知恵だな。
緊張しすぎると神経がすり減っちゃうからね
手術室じゃ執刀医の先生がオヤジギャグを言うらしい。
和やかなムードのほうがリラックスできて報連相も円滑に進む。
ここぞって場面で本気を出すために、今は楽しむぐらいがちょうどいいのだ。
ただ、ちょっと楽しみすぎたかな。
賑やかだとオバケも出てきにくい。
夕日が森の向こうに沈んでも、『魔鎧』は影も形も見せてくれなかった。
暗くなった夜空に6つの月が昇る。
昼間ほどじゃないが、散歩には困らないくらい明るい。
でも、よく見えるからこその怖さってあるよね。
ずっと遠くのほうに生えた木が手招きしているように見えたりさ。
昼間のうちより、みんなも口数が減っている。
「レオ、尻尾」
「また触るの、ダニー!?」
「いやぁ、触っていると落ち着くんだよね。レオの尻尾さらさらでさ」
「フン! まあ、ダニーならいいわ!」
まどと乳繰り合っていると、不意に足首に冷気を感じた。
凍てつくような空気が足元から這い上がってくる。
吐く息が白くなり、明らかに空気が変わった。
動くものはない。
音も聞こえない。
でも、全員が息を殺しているのがわかる。
いよいよその時が来たと、みんな肌で感じているようだった。
「この寒気、間違いねえ。奴だァ」
プガーロが吐息でささやいた。
パキ――。
小枝を踏むような音。
ギギ、という金属が軋む音も聞こえてくる。
音は段々と近づいている。
……。
茂みの向こうの木々の合間で何かが動いた。
黒いもやのようなものをまとった人影だ。
六つ月がその姿を浮かび上がらせる。
「……」
鎧だった。
真っ黒な全身鎧。
あちこちさびて苔むして、しかし、右手に握った剣だけは銀に光っていた。
「『魔鎧』アルナマガル。あれがオレらの標的だァ」
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