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33 道中


 草原の先に深い森が見える。

 あれが、『魔鎧』の住処、西の森だろう。

 日が高いおかげか、どこにでもある普通の森にしか見えない。


 私が転生した森はあっちか。

 コバルトブルーの森ね。

 ヤバい奴のテリトリーじゃなくてラッキーだ。

 本当にラッキーならダニなんかやってないけどな。


「標的の出没地点まではまだ距離があります。今のうちに、おさらいをしておきましょう。まずは、『魔鎧』が生まれた経緯について」


 御者台の上でフリッシ君は羊皮紙の束をめくった。


「『魔鎧』ことアルナマガルは生前、著名な騎士でした。純白の聖鎧を身にまとい、王国に並ぶ者なしと謳われるほどの。そして、高潔な人物でもありました」


 聖騎士アルナマガルか。

 こういう奴ほどこじらせると大変なイメージだ。


「しかし、彼のその高潔さを疎ましく思う者もいた。一切の穢れを許さない気高い精神はスネに傷を持つ者にとって目障りでしかなかったのです」


 融通が利かないと角が立つ。

 ちょっと汚い大人のほうが世渡り上手なんだよな。


「彼は西の森で討たれました。仲間だと思っていた騎士に斬り刻まれて。しかし、アルナマガルは最後まで気高い騎士であり続けたと聞いています。彼ならば全員を斬り捨てて逃げ出すこともできたのに、一切の抵抗をしなかったというのですから」


 言葉の抑揚から憤りと、それから、アルナマガルへの敬意が感じられる。

 フリッシ君は人情派だからね、シンパシーを覚えるのだろう。


「肉体は朽ち果て、純白の鎧が黒く染まってもなお、彼は暗い森を彷徨い続けている。僕たちが解き放ちましょう、彼を怨嗟の鎖から」


 うんうん。

 人一倍頑張ったアルナ君の魂ならきっととびっきりの美少女に転生できるよ。

 とっとと解放してやらないとね。


 しかし、動く屍(アンデッド)か。


「日が沈む前になんとかしたいねえ」


 ホラーは苦手なんだ。

 夜、トイレに行けなくなっちゃう。


「今日は六つ月ですから、夜でも明るいと思いますよ」


 フリッシ君は爽やかに笑うと、羊皮紙をひらりとめくった。

 ……えっ、月って6個もあんの!?


「続いては、戦闘時の注意点についてです。『魔鎧』はダニエルさんと同じマルチスキル持ちだそうですよ。生前からそうだったのか、死後に力を得たのかは定かではありませんが」


 ここからは戦闘経験のあるプガーロさんにお任せしたほうがいいですね、とフリッシ君はパスを出した。


「5年前、プガーロさんが情報を持ち帰るまでは完全なるブラックボックスだったわけですから」


「おだてるんじゃねえ。オレは口下手だかんなァ、ざっくり説明すんぜ?」


 プガーロはケツをボリボリと掻き、


「奴の攻撃は意外と単調だ。アンデッドは脳が腐ってるから、みんなそうだがなァ。武技とスキルを連発するだけだ。だが、それがシンプルに強ェ」


 ダニの私でも【かまいたち】連打でたいていの魔物は倒せるからね。


「特に警戒すべきなのが、剣から斬撃を飛ばす技だァ。地を這うように飛んでくる。すさまじく速ェ。オレは仮に【閃烈斬】と名付けた」


 奇剣【九頭竜】と似た技だろうか?

 あれは、斬撃を飛ばすのではなく極細ワイヤーで斬りつける技だが。


「それから【暗黒操作】だ。これもオレがテキトーに名付けた。得体の知れない黒い影を操る攻防自在のスキルだ。魔法と違って詠唱も陣も必要としねえ。剣を持ってねえほうの手が動いたら合図だァ」


 私の【闇夜纏】を戦闘用にチューンしたスキルって感じか。

 姿を消して【閃烈斬】とかされたら厄介極まりないな。


「一番やべえのが、目だなァ」


「目ぇ?」


 私は羊の鳴き声みたいにオウム返しした。


「奴に睨まれると体が石みてえに重くなりやがるのよ。動けなくなったところに、【閃烈斬】だァ。オレの仲間はみんなこれでやられた」


 シーンと静まり返る討伐隊一行。

 睨まれたら終わりってヤバイな。

【石化の魔眼】ってところか。

 私の【威圧】も相手を怯ませる効果がある。

 でも、動けなくするほどではない。

 全体的に私の上位互換って感じだな。

『六怪』の名は伊達じゃない。


「まァ、対処法がねえわけじゃねえ。目を合わせなけりゃいいだけだからなァ。おっと、言うほど簡単じゃねえぜ? 腹の辺りを見ていても多少は効果を受けちまう。完璧に防ぐには奴自体を見ねえことだァ」


 すさまじく速い剣撃を飛ばしてくる敵を一切見るなってか。

 無理ゲーだな。

 笑える。


 強力な武技と2つのスキルの力押しかぁ。

 高レベルが売りの私だけど、レベルにあぐらをかいていると痛い目に遭いそうだな。


「アンデッドなんでしょ? 急所を刺しても死なないって厄介ね」


 レオは両手の指先から光る爪を伸ばして気怠げな声を上げた。

 魔力を刃に変える【獣牙】という武技らしい。

 獣人族が好んで使うんだそうな。


「しかし、アンデッドには致命的な弱点があります。ダニエルさん、なんだと思います?」


「塩だな。それか酒かも」


「大正解です!」


 さっぱりわからないのでテキトーに答えると、フリッシ君に褒められた。

 おじさん、うれしい。


「そう、アンデッドの弱点と言えば、聖魔法です。塩をかけられたナメクジみたいに体が溶けてしまうんですよね」


 正解なのか、それは?


「で、誰が聖魔法を使うの?」


 私は素朴な疑問を口にした。

 誰もハーイと手を挙げる者はいない。

 代わりにプガーロが両の拳を打ち合わせた。

 ゴガン、とすごい音がする。

 彼の両手はメタリックな篭手ガントレットで覆われていた。

 拳の先で星型の十字がギラリと光る。


「そいつァオレの役目だな。オレの拳にかかりゃ、どんなアンデッドも一瞬で成仏よォ」


 手下の二人が、よっ兄貴ィィィィ、とうるさい。


「プーって聖魔法が使えるんだ」


「違げェよ、使えるのは聖拳だァ。女神パワーでぶん殴るんだよォ」


「信仰心とは程遠い凶悪な顔してるのに!?」


「……どういう意味だァ?」


 ほら、その顔だよ。

 鏡見ろ、鏡。


「チッ、聖拳術士のプガーロっつったら昔はちょっとは知れた名前だったんだがなァ。『葬拳』とか呼ばれてよォ」


 チラッ。

 視線を送ってくるので私は知らん知らんと首を横に振る。

 ガックシと肩を落とすプガーロである。


「まァ、あれだ。アンデッドは聖魔法にめっぽう弱ェ。オレが一発入れりゃ片がつくってこった」


 そいつは朗報だ。

 なら、この依頼達成の鍵はアタッカーのプガーロをどれだけ活かせるかにあるね。

 私はサポート役に徹するとしよう。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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