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28 あなぐら的酒場


「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」


 レオと稽古を初めて3日が経った。

 稽古は真剣あり・スキルありの実戦形式で行っている。

 どっちかが参ったと言うまで決着がつかないエンドレス方式だ。


 エンドレスなのはそれだけじゃない。

 朝から夜までぶっ続けで何十本でもやる。

 休憩?

 なにそれ?

 あるわけないじゃん。

 動けなくなったら、その日の稽古は終了だ。


 キツイ。

 死ぬほどキツイ。

 思っていたのと違うって……。

 おっさんはもうボロボロだ。


 でも、レオは何度ぶっ飛ばされても無尽蔵の体力で食らいついてくる。

 もうゾンビよ、ゾンビ。

 銀豹族の交戦意欲、凄まじすぎだろ。


 一撃一撃にきっちり殺意を込めて打ち込んでくるんだぜ?

 傍から見たら殺し合いなの。

 勘違いした町の人が通報して衛兵が山ほど駆けつけるくらいのガチっぷりだからな?


 でも、おかげで、私もだいぶ強くなったと思う。

 初めのうちは、ガルススの体に染みついた戦いの記憶だけで戦っていた。

 一知半解って言うの?

 本体あたまとの連動性が課題だったんだよね。


 それが今ではいい感じに馴染んできた。

 奇剣の使い方もバッチシよ!

 ゲームと同じだ。

 強い人と戦うのが一番成長に繋がる。


 とはいえ、だ。

 とはいえ、何事にも限度ってあると思うよ!?


「うラァ――ッ!!」


「ぐわーっ」


 レオの必殺回し蹴りにわざと当たった私は、ド派手に吹っ飛んでから【闇夜纏】を発動した。

 もうゴメンだ。

 体中が悲鳴を上げている。

 もう無理。

 付き合いきれるか!


「ダニー! もう一本いくわよ! ダニー?」


 やだあああ。

 私はピューと逃げ出した。

 くたくただ。

 頑張りすぎて手が震える。

 酒飲んでHP回復しないと。


 私は夜闇に紛れて路地裏のバーに飛び込んだ。

 あなぐら的な場所だった。

 悪そうな顔の男とふしだらな格好の女が軟体動物みたいに絡み合っている。

 素晴らしい。

 私の勘が告げている。

 こういう店にはいい酒があると。


「こちら、南方産のエールでございます。本来は王族の方しか飲むことができない一品でございまして」


 マスターが私を黄金の液体で誘惑してくる。

 王室御用達の一品が市井に出回るはずがない。

 つまり、これは密造酒、あるいは横流し品ってわけだ。

 ぐふふ、罪が酒をうまくする。

 マスター、わかってるねえ。


 あァ、犯罪だって?

 うるせえ。

 私は山賊だ。

 金払っているだけマシだと思いな!

 だいたい王族しか飲めない酒ってなんだ?

 不公平だろ。

 酒の道はな、酒がないと生きていけないすべての人に平等に開かれるべきなんだよバカヤロー。


 私は黄金の液体を一息で飲み干した。

 かああーー。

 一汗かいた後の酒は格別だあ。


「言われた通り、あの銀豹族の鼻っ柱をへし折ってやったぜェ」


 聞き覚えのある声がして、私は耳をそばだてた。


「あれだけ派手にやられりゃ心のほうもポッキリだろうよ」


 黒真珠のような後頭部が見える。

 あのデカい背中はプガーロか。


「損な役回りをさせたわね。これ、少ないけどもらってくれる?」


 向かいの席に座るのは、冒険者ギルドの受付嬢スウィーテ先輩だ。


「いつも悪りィな。町から出ることすらできねェ臆病モンにゃ過ぎた金だァ」


「また思い上がった若い子がいたら力を貸してちょうだい」


「オレなんかでよけりゃ、いつでも使ってくれや」


 うーむ。

 妙な場面に遭遇してしまったなぁ。

 鼻っ柱を折られた銀豹族って考えるまでもなくレオのことだよな。


 言われた通り、へし折ってやったぜ。

 少ないけどもらってくれる?

 ……か。


 これを聞く限りだと、プガーロはスウィーテ先輩の指示でレオに喧嘩を売ったということになる。

 そして、――いつも悪りィな。

 今回が初めてというわけではないようだ。


「また馬鹿な子がいたら、お願いね。私、お葬式なんてもうごめんよ」


「オレもだァ。それじゃあな」


 プガーロが席を立った。

 店を出るなら私のすぐ横を通ることになる。

 顔を見られるのはマズイ!

【眼球如意】……は、さすがに見破られるよな。

 仕方ない。


 ひし――っ。

 私はマスターに抱きついた。


「な、なんですか急に……!」


「いえ、マスターに惚れちゃったみたいで」


「ふぁ!?」


「やだ、怯えちゃって、かわいい……」


「わ、私には妻が……」


「むしろいいね。背徳的だ」


「殴りますよ、これで」


 これとは、酒瓶のことである。

 中身がたっぷり入っている。

 なら、むしろ殴られたいわ私。

 そのくらいお酒がラブなのよ。


 などと乳繰り合っているうちに、プガーロが店を後にした。

 マスターに軽く詫びてから、私は指をゴキゴキさせつつスウィーテ先輩の向かいに腰を下ろした。


「納得できる説明をしてもらえるんだろうね?」


 組んで間もないとはいえ、レオは私の大切な仲間だ。

 泣かしたお礼をさせてもらおうか。


「……ダニエル、さん?」


 スウィーテ先輩の顔を覗き込んで、私はハッと息を呑んだ。

 彼女の頬を涙が静かに伝い落ちた。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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