25 レオVSプガーロ
冒険者ギルドの前に人だかりができている。
その中心で向かい合うのは二人の冒険者だ。
どっちも実力者だから、ギャラリーも熱視線を送っている。
「高レベル同士の喧嘩だぜ? そうそうお目にかかれるものじゃねえよ」
「小柄でスピードタイプのレオにゃんか、デカいパワータイプのプガーロか。一体どっちが勝つだろうな」
「そりゃ、プガーロだろ。あいつは本職の拳闘士だ。殴り合いなら、剣でも使わなきゃフェアじゃねよ」
「だな。経験でも明らかに上だ。オレたちのレオにゃん、ダニエルさんに続いて連敗もあるぞコレ!」
「さあ、はったはったー!」
例のごとく賭けが始まった。
私はレオにゃん推しかな。
賭けなんて退廃的な遊び、知識階級の私はやらないけどね。
くすねた酒をぐびーっとあおりつつ、私はレオの勝ちに銀貨1枚を投じた。
ゲヘヘ……!
「ダニーを待たせるのも悪いから、1本勝負でいいわね! 最初に1本入れたほうが勝ちよ!」
レオはすでに勝ったかのように鼻高々だ。
プガーロが『臆病者』と呼ばれているのを知っているのだろう。
一方、対戦相手のプガーロはなぜか下半身を露出している。
黒曜石みたいに艶やかな尻をペチペチ叩いて、
「おらァ、蹴りやすいようにケツ出してやったぜェ? 来いよオラオラ」
などと下品な挑発をしている。
ブチッ、と音がした気がする。
こんな安い挑発にもちゃんと乗ってくれるのが我らのレオにゃんである。
「ダニー、あの雑魚片づけてくる。ちょっと待ってて」
おー、壁は壊すなよー。
「おちーりペンペーン!」
「絶対泣かすッ!」
レオが低く構えた。
逆立つ髪を見れば頭に血が上っているのがわかる。
「両者、見合って見合ってぇー! ホイ、始め!」
お調子者の行司が軍配を返した。
その瞬間、レオが風になった。
大跳躍からの飛び膝蹴り。
いかにも、挑発に乗りましたって感じだ。
でも、うちのレオにゃんは意外と策士なんだよね。
レオは守りを固めたプガーロのハゲ頭に手を添え、跳び箱の要領で飛び越えた。
そして、背後を取ると襟を掴み、足をかけて巨体を鮮やかに転がして見せた。
起き上がりざまを狙って一気に距離を詰める。
勢いと体重を乗せた大振りのパンチだ。
それを迎え撃つように、プガーロは大きな体を小さくまとめた。
「らァッ!!」
レオの拳がプガーロの頬骨の辺りに炸裂した。
しかし、プガーロはまるで怯まなかった。
カウンターパンチがレオのこめかみをかすめる。
皮膚が裂けて、血が銀の髪を赤く染めた。
「プガーロの奴、巧めえ! 躱すより受けてから流すほうが無駄がねえ!」
「でも、今のはあご狙えよ、あご! 狙ってたら入ったろ!」
「さてはビビって勝機を逸したな! この臆病者ぉ!」
冒険者たちが大盛り上がりだ。
傍から見ていたらよくわかる。
速さ、キレ、パワー。
二人とも、どれをとってもピカイチだ。
これは酒が進むなぁ!
喉をごきゅんと鳴らしてから、私は少し眉をひそめた。
たしかに今、狙いがあごなら決着がついたような気がする。
プガーロは狙えたのに狙わなかったように見えた。
ま、私は素人だ。
気のせいかもしれないけど。
息つく間もない攻防が続く。
果敢に攻めているのはレオのほうだ。
でも、有効打が一向に入らない。
躱され、いなされ、受け流され……。
内野ゴロやポテンヒットみたいな歯切れの悪いヒットしか出ない。
痺れを切らしたレオが踏み込んだタイミングで、プガーロの拳が襲いかかる。
こっちもこっちで有効打ゼロだ。
レオがうまく躱しているっぽい。
でも、かすった拳が頬を切り裂き、腕や脚にも血が滲んでいる。
まるで少しずつ削られているみたいに。
引きで見ると、レオ優勢に見えるんだけどな。
不思議だ。
「固ってえなプガーロ! 本職はやっぱ違げえ!」
「レオにゃんも速い速い! オレなら100回はKOもらってんぞ!」
「間違いなくトップクラスの戦いだ! まばたきすら惜しいぜ……! ひゅー!」
私も気づけば手に汗握っていた。
酒なんて飲んでいる暇ないよ。
拳と拳のぶつかり合い。
スピード対パワー。
ファウートの頂上決戦だ。
血と汗が混じり合って桜吹雪のように舞い散る激しい攻防の中、――ズザッ!!
プガーロが足を滑らせた。
吹き溜まりの落ち葉を踏んだらしい。
「……ッ!!」
チャンスとばかりにレオが踏み込み、居合のごとき鋭いハイキックを繰り出した。
プガーロはそれを肘で迎え撃って相殺する。
「ぐ……ッ」
骨同士がぶつかる嫌な音がした。
レオの顔が苦悶に歪む。
バランスが崩れたところで、初めてプガーロから踏み込んだ。
絶妙手だ。
これ以上ない最高のタイミングだった。
――ッォオ!!
大きな拳が唸りを上げる。
猛禽のような目がレオの鼻っ面を睨んだ。
レオは当然のように腕で顔を覆う。
そして、プガーロの拳が炸裂した。
レオの、――腹に。
深々とめり込んだ。
「がぁ……ッ!?」
完璧なフェイントだった。
しかし、レオも然る者。
体を猫のようにひねり、長い脚でプガーロの側頭部を打ち抜いた。
同時に倒れこむ二人。
表通りにどっと歓声が沸き立った。
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