24 ウザ絡みデカ男
「ダニー! ダニー! んふふっ!」
フリッス邸からの帰り道。
レオがスキップしながら私にじゃれついてきた。
「ダニー、ありがと! このあたしがお礼を言ってあげるわ!」
「どいたま。ちなみに、何に対するお礼だい?」
「のんだくれているフリして、大っきな依頼を探してくれていたんでしょ? あたしのために!」
大きな依頼?
ああ、魔鎧討伐の件か。
別に探してなんかいないぞ?
私がしたことといえば、酔ってゲロ吐いて女の子を押し倒しただけ。
礼なら首尾よく商談を通したフリッシ君に言うといい。
「あたしがダニーとパーティーを組んだのも『魔鎧』に挑むためなの!」
「そうだったのか。レオも西の森の流通路に興味があるの?」
「そんなもん興味ないわ! あたしは『魔鎧』を倒したいだけ!」
「倒してどうすんのさ?」
「威張るのよ!」
当然じゃない、とばかりにレオは牙を煌めかせている。
あんたらしいよ。
「ダニー、ちょっと笑ったでしょ! あたしにとっては切実なのに!」
「悪い悪い」
でもまあ、今の私は意識していないと笑みがこぼれるくらいご機嫌かな。
フリッシ君が前払いで依頼料をくれたからね。
成功報酬と合わせれば壁代を払ってもお釣りがくる額だ。
『魔鎧』彷徨えるアルナマガルか。
一筋縄ではいかない相手だと考えるまでもなくわかる。
でも、私はLv.50だ。
どうもこの町では一番レベルが高いようだし、善戦できるだろう。
ヤバくなったら逃げればいい。
討伐に成功しなくても別途報酬は出るし、美味しい話だ。
出発は、1週間後。
それまでは、のんびり準備させてもらうとしよう。
◇
そして、翌日のことである。
「ねえ、あんたたち! 聞きなさいよ! あたし、『魔鎧』を倒すわ! ダニーと一緒にね!」
レオが冒険者ギルドに用があるというから同行してみたわけだが、まさかただ自慢したいだけだったりする?
「あの『魔鎧』アルナマガルよ! どう? すっごいでしょ!」
レオったら冒険者に手当たり次第に声をかけてはドヤ顔でふんぞり返っている。
恥ずかしいからやめてほしいんスけど。
「へえ、ついに挑戦か! レオにゃん、意欲的だったもんなぁ!」
「ダニエルさんとレオならいけるかもしれないわね! この町トップクラスの高レベル冒険者だもの!」
「違いねえ。こりゃ祭りだなオイ!」
冒険者たちもノリがいいから、レオの周りに輪を作ってはやし立て始めた。
すっかり気をよくするレオである。
異世界の皆さん、ご覧下さい。
あれが天狗ですよー。
「何が『魔鎧』だボケェ!」
ロビーの奥から怒鳴り声が飛んできた。
ガラの悪そうな3人組が真っ昼間から酒の匂いを垂れ流している。
「ギャーギャーうるせえんだよォ。くだらねえことで騒ぐんじゃねえ」
ほかの二人はともかく、一人デカイのがいるな。
黒い肌を筋肉でパンパンに隆起させて、怒張した血管をヘビみたいに全身に巻きつけた大男。
まとっている空気からわかる。
Lv.30くらいはありそうだ
「出たよ。プガーロのウザ絡み。新人見つけると、すぐあの調子だ」
「まぁーたやってんのか。懲りねえクズだな」
「オレのダチも、あいつにこっぴどくやられたんだ。鬱陶しいことこの上ないぜ」
冒険者たちが忌々しそうに睨んでいる。
だが、プガーロと呼ばれた大男が椅子を転がして立ち上がると、びくんとして逃げ出した。
うちのレオにゃんは腕組みで迎え撃つけどね。
「何よ、あんた?」
「黙れ、このクソガキがァ。お前ごときが『魔鎧』に挑むだァ? 笑わせる」
プガーロは大きな手でレオの頭をベシベシと叩いた。
「オレが見てやらァ。お前に挑む資格があるかどうかなァ。おらァ、来いよオラオラ」
「あたしは忙しいの。あんたみたいな酔っ払いの相手している暇はないのよ」
忙しいって、あんた自慢しかしてないでしょ。
「逃げんのかァ? 尻尾巻いてよォ。銀豹族ってのは案外腰抜けなんだなァ」
「……」
レオの目つきが険を帯びた。
スイッチ入っちゃったね。
またしても喧嘩である。
好きだねぇ、冒険者って。
「仕方ないわね。ちょっとだけ相手してやるわ。表出なさいよデカ雑魚バカ」
レオが親指で外を示すと、プガーロは指をゴキゴキと鳴らして白い歯を剥き出しにした。
止めても聞かないだろうなぁ。
私はのんびり高みの見物でもさせてもらうとしよう。
でも、その前に、
「あのデカいの、強いの?」
私は受付前でたむろしていた年増の冒険者たちに訊いてみた。
「ああ、ダニエルさん。プガーロのことですかい? あいつはまあ、昔は腕利きの冒険者でしたねえ」
「今でも素の力ならトップクラスじゃないかしら。最近は悪い噂しか聞かないけれど」
「『臆病者』のプガーロだろ。もう何年も冒険どころか町の外にも出てねえって話だ。魔物が怖いんだとよ」
「仲間をやられて心が折れちまったんだろうなあ。この業界じゃ珍しくもねえ。明日は我が身ってな」
ふーん。
あんなにおっかない顔なのに、臆病者呼ばわりされているんだ。
冒険者にもいろんな奴がいるんだな。
私はササッと手を走らせて、プガーロたちが忘れていった酒瓶をくすねた。
まだ半分くらい残ってるぜゲヒャヒャ。
「もぉー、ダニエルさんったらぁー!」
ルヴィちゃんがぷくーっと頬を膨らませた。
大目に見とくれよ。
野球観戦だってビールが欠かせないだろ?
喧嘩もおんなじだって。
飲みながら観るのが一番楽しいの。
ガルススなら絶対そう言うね。
ということで、私もスキップしながら表に向かった。
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