22 一族のおきて
「ちょっと、ダニー。まっすぐ歩きなさいよ」
気がつくと、私は真っ暗な通りを歩いていた。
私の脇の下に何かが潜り込んでいる。
レオだ。
ものすごく煩わしそうに私を支えている。
何していたんだっけ?
そうだ。
酒場で飲んでいたんだ。
記憶が途中でプッツンしているな。
夜ってことは、あのまま飲み続けて潰れてしまったらしい。
依頼を受けようと思っていたのに散々だ。
ああ、頭が痛い。
私は往来の真ん中でズボンを脱いでスッキリした。
ついでに、胃の中にたまった未消化のものを地面に吐き出した。
「ギャハハ!」
「ぎゃははじゃないわよ!」
レオが真っ赤な顔で私の下半身を見つめている。
私ってば、なんてことをしているのだろう。
酒を飲んで気が大きくなっているみたいだな。
ほぼガルススの素が出ていると言っていい。
困った体だ。
飲まなければ手が震えるし、飲んだら飲んだで自制心がぶっ壊れる。
乗り換え可能な好物件が見つかるまでは上手に付き合っていくしかないね。
「ついたわよ」
宿に戻ってきた。
私は右によろよろ左にふらふらしながらベッドを目指す。
あと3歩がめちゃめちゃ遠いな。
「あっ」
「うぇーい……」
結局、レオを押し倒す形でベッドイン。
「どきなさいよ、酔っ払い!」
「へーい、……ひっく」
私は気怠さマックスでなんとか体を起こした。
真下にレオが見える。
目が合うと彼女は顔を赤らめた。
そして、どこを見ていいのやらわからない様子で視線を泳がせる。
その一連の仕草に私の胸はどくんと高鳴った。
気づけば、私はレオの頬に触れていた。
親指で唇をなぞり、白い犬歯をなでる。
「尖っとるぅ……」
「だ、だったら何よ?」
赤い顔で睨み返してくるレオがなんでだろう、どうしようもなく可愛く見える。
私は小さな口に親指を突っ込んだ。
右の奥歯をなでて、舌の奥に触れ、左の奥歯へと指を滑らせる。
「ぬるぬるぅ……」
「わ!? ちょ、やめ……」
嫌がっているようにも見えるけど、その割に抵抗が弱いな。
満更でもないのか、お前。
へへへ……。
なんか変なスイッチ入ってるな、これ。
私じゃない。
このおっさんのほうだ。
酒で理性のブレーキが弱まって、肉体のほうが暴走している感じだ。
「嫌ならそう言えよぉ、レオ」
「嫌じゃ……ないわ。強者絶対だもの」
涙目でレオはそう言った。
「その強者ナンタラって何ぃ……?」
「強者絶対。強い奴の言い分が全部正しいの。あたしの一族のおきて」
銀豹族だっけ?
そんな風習があるのか。
「負けた以上は逆らわないわ。ダニーがすること、全部正しいから。あたしはダニーに従うから」
頬を真っ赤にして目をつむるレオ。
なんだよ、もぉ……。
一挙手一投足が全部可愛い。
私の心臓は走っているみたいに高鳴った。
私の心臓と言うより、このおっさんの心臓だけどな。
「へへへ、可愛いのう。レオにゃん」
「うう……」
「おーいー、じっとしてろよぉー」
「だ、ダニーがそう言うなら……」
「猫耳ぃぃ、触らせろよぉー」
「嫌。で、でも、ダニーがどうしてもって言うなら……」
うへへ、大人しいレオがいじらしい。
もっといじめてやりたいなぁ、げへへ。
「……うっ」
なんか急に眠くなってきたな。
お酒を飲んだの初めてだけど、こんなに体調がぐちゃぐちゃになるものなのか。
ほどほどにしないとな。
うぐぐ……。
あっ。
ダメだ、これ。
寝落ちするやつだ。
あぐ。
私は前のめりにぶっ倒れて、……寝た。
◇
そして、次の日のことである。
「ダニーがあたしのこと敷布団にした……」
レオに恨みがましい目でじっとりと睨まれる私であった。
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