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21 酒こわい


 足りない。

 金が足りない。

 圧倒的に足りない。

 食費、宿代、そこにその他もろもろの雑費が加わって、極めつけが壁の修理代だ。


 足りない。

 フリッシ君にもらったお金を勘定に入れても明らかにケタが2つ足りない。

 依頼を受けないとなぁ。

 干上がってしまう前に。


「んふふ~ん! んふふ! んっふっふ~ん!」


 憂鬱な私と違って、レオはご機嫌だ。

 尻尾をフリフリ、耳をぴょこぴょこさせながら鼻歌まじりにスキップしている。


「やっとあたしも自分のパーティーが持てたわ! ……手下のほうだけど」


 そう、リーダーは私だ。

 レオに任せると、ドラゴンの巣窟とかに連行されそうだしな。


「そんなにパーティーを組みたかったの? レオならソロでも大活躍できそうだけど」


「ルヴィの奴がうるさいのよ。ソロは危ないから討伐依頼はダメですぅーってね」


 レオは銀髪を掴んでポニテにしている。

 ルヴィちゃん、ナイス判断だ。

 この子、いろいろと危なっかしいからね。


「本当はあたしよりちょっと弱い男子がよかったわ。いっぱい殴ってビクビクさせたかったのに」


 どこからくる欲求だ、それは!?


「でも、雑魚は仲間にしたくなかったの。だから、ダニーに会えてよかったわ!」


 まっすぐな笑顔でそんなことを言われたものだから、私は思わず顔をニマニマさせてしまった。

 多少乱暴だけど、いい子じゃないか。


 そうこうしているうちに、冒険者ギルドが見えてきた。


「あれ?」


 扉に手をかけたところで、私は違和感を覚えた。

 手が……震えている。

 どうしたんだろう?

 この体、何かの病気か?

 そういえば、息も落ち着かない気がするし、なんだか無性にムシャクシャする。


「ダニー、腹が減ってるんじゃないの? あたしもお腹減ったときは手が震えるわ」


「あー、そうかも」


 血糖値が下がると、たまにあるよね。

 そういえば、私、焼き鳥のおコゲしか食べていないな。

 腕には傷を負っているし、そろそろ何か食べないとまずいかも。

 自分の体じゃないからイマイチ勝手がわからないんだよな。


「食事は戦いの基本よ! 依頼に出る前に腹ごしらえするわよ! ついてきなさい!」


 レオは私の手を引いて駆け出した。

 近くの酒場に飛び込んだ段階で震えはピークに達する。


 もう早く何か出してくれ。

 でないと私はゾンビウイルスの感染者みたいに見境なく人にかじりつきそうだ。


「へい、お待ち! トゥネリー産のカニだよ。簡単にゃ手に入らない一品だ。よく味わって食べな!」


 二度見不可避なサイズ感の赤々とした巨大な脚が出てきた。

 なにこれ、武器ですか!?

 持ち上げてみると、重い。

 そして、硬い。

 こりゃぶったまげた。


 とりあえず、関節のところで折ってみる。

 どこから食えばいいんだ?

 ええい、煩わしい。

 私を舐めるな。

 殻ごと喰らい尽くすぞ、オラ。

 ハアハア……。


「あたしがやったげるわ!」


 レオが手際よく殻を剥いてくれた。


「はい、ダニー!」


 剥き身のカニが私の前にべろんと垂れる。

 真っ白な繊維がうまそうだ。


「ほら。あーんしなさいよ」


「えぇ……。顔を近づけたところで殴られたりしない?」


「あたしが殴っても、どうせ効かないんでしょ?」


ま、それもそうか。


 パク――。


 美味しい。

 空腹だから何食っても美味しいと感じるだろうな。

 初めての人間の食事は最高だワハハ!


 でも、前世で食べたものはもう少し美味しかったような。

 茹で過ぎで旨みが逃げている感じだ。

 この世界は輸送も保存も中世レベルだからね。

 新鮮なカニを仕入れるのは難しいのだろう。

 食えれば文句はないがね。


 レオが剥きに徹してくれるのをいいことに、私はカニのデカ脚をぺろりと平らげてしまった。

 しかし、震えは治まらない。

 むしろ悪化している気さえする。

 なんかね、もう世界が揺れているのよ。

 あわわ……。


「兄さん、いい食いっぷりだね! 酒もいっときなよ! 1杯目はサービスしとくよ!」


 気前のいいおばさんがバケツみたいなジョッキをドカンと置いてくれた。

 その中でたゆたう酒がなぜだろう、私の目には黄金のように輝いて見えた。


「ハう……ッ!!」


 お礼も忘れて私は飛びついた。

 半分ぐらいこぼしながら飲み込んでいく。

 焼けるような感触が喉から胃の腑へと滑り落ちていくのがわかる。

 そして、胃に火が灯った。


 一杯引っかけた途端、手の震えが止まった。

 もしかして、私が求めていたのは酒だったのか!?

 そういえば、ガルススも酒をあおっていたね。

 首に噛みついたときにも酒臭かったのを覚えている。

 血が酒臭いって、普段から相当飲んでいたんだろうな。

 飲まないと禁断症状にさいなまれるくらいに。


「お、おかわり! 樽でくれ!」


 私は声を震わせて叫んだ。

 おばさんが樽をドカンと置いてくれた。

 ありがてえ。


「あたしが、ついであげるわ!」


 カニのときもそうだったけど、レオが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。


「私のことはいいから、レオも好きに飲み食いしなよ」


「いいわよ。あたしが全部してあげる」


「でも、悪いしなぁ」


「気にすることないわよ。ダニーはあたしより強いんだし」


 強さ関係なくない?

 でも、そんなことはどうでもよかった。

 とにかく、今は酒が欲しい。


 ジョッキを突き出して、あれ? となった。

 私の腕の傷がいつの間にか治っている。

【解析】さん、どういうこと?


『スキル【酒治癒】:酒に治癒効果を付与する。』


 ガルススの奴、そんなスキルを持っていたのか。

 のんだくれ専用って感じだな。

 飲めば癒えるなら、じゃんじゃん飲むか。


 というわけで、私はそこから怒涛の勢いで飲み進めた。

 いくら飲んでも乾きが満たされない。

 次から次へとジョッキをカラにした。


 酒って飲み物じゃないんだな。

 ガソリンだ、ガソリン。

 いくら喉の奥に注ぎ込んでも腹の中で燃え尽きて、次の一杯が欲しくなる。

 足りない。

 全然足りない。

 もっとだ、もっと。

 もっと酒をよこせ。


 世界がぐるぐる回り始めた。

 アルコールたっぷりの血を吸って、本体まで酔ってしまったみたいだ。

 視界がぐにゃぐにゃだ。

 気持ち悪い。

 でも、それが気持ちいい。

 これが酔うってことか。


 でも、たぶん悪酔いだ。

 刹那的衝動が抑えようもないくらい湧き上がってくる。

 全裸になって踊りたい。

 逆立ちしてションベンしたい。

 テーブルの上でうんちしたい。

 まるで悪いクスリでもやっているみたいに破天荒な思考が繰り返される。

 でも、そんなの、もうどうでもいい。

 ヒャハハ!


 私はひたすら飲み続けた。


「あぁ! うんこにゃんだぁ、ダハハ!」


「誰がうんこよッ!」


 ドゥハハハハハぁ!


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

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よろしくお願いします!

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