2 血吸ってスキルゲット
わっせわっせ。
斜面を登る。
たぶん人間目線だと15センチくらいの段差だ。
だけど、今の私はダニだからね、雲より高い断崖絶壁を登っている気分だ。
周りのダニが足を滑らせて転げ落ちていく。
フン、馬鹿め。
美味しそうな匂いはもうすぐだ。
私が一番乗りしてやろうフハハハハ。
どうせ悪い夢だろう。
ダニ化する明晰夢は貴重だ。
ミクロの世界を楽しませてもらおう。
しかし、目が見えるタイプのダニでよかったな。
マダニは目が見えなかった気がする。
無明の世界を、匂いだけを頼りに這い回るなんてゾッとする。
とはいえ、視界は30センチくらいしかないから、入浴剤をたっぷり入れたバスタブの中を泳いでいる気分だな。
でも、匂いはくっきり感じられる。
風の流れすらも手に取るようにわかっちゃうね。
私は匂いに惹かれ、何か途方もなく巨大なものの前にたどり着いた。
めちゃめちゃ美味しそうな匂いがする。
ハンバーグでできた富士山を前にしているみたいと言えば伝わるだろうか。
腹減ったな……。
もう我慢できん。
私はピョンと跳びついて、肉の大山脈を登り始めた。
ひときわ香りが強いところで足を止めてみる。
この足場、不思議な構造だな。
細い繊維が規則正しく並んでいる。
顕微鏡で見た羽毛に似ているかも。
私は繊維をかき分けるようにして、奥へ奥へと潜り込む。
地面が見えてきた。
薄いピンク色だ。
……美味しそう。
地面を見てよだれを垂らしそうになったのは初めてだ。
どんだけ腹すかせてんの、私。
これ、美味しそうだけどなんだろう?
食っていいものなのか!?
腹壊したりしないよな?
ジーッと見つめていると、頭の中に文字が浮かんできた。
『――スキル【解析】を発動します。』
スキル?
ゲームでお馴染みの特殊技能のことか?
と思っていると、さらに文字が浮かんできた。
『分類名【ふくろう】』
『種族名【闇隠梟】』
『種族レベル【Lv.4】』
ふくろう?
このハンバーグ大山脈の正体はふくろうってこと?
なるほど。
このピンク色の地面は、ふくろうの地肌ってことか。
この奥にダニの大好物、――血がある。
美味しそうに見えるわけだ。
周りでは、ほかのダニたちが吸血を始めている。
私の空腹度も限界だ。
あらよっと!!
右にならえで私も牙を突き刺してみた。
口から伸びているギザギザの牙だ。
鋏角って言うんだっけ。
面白いほどズブズブ刺さっていく。
夢中で掘り進めていくと、突然顔に熱いものを感じた。
温泉を掘り当てたみたいにドバドバ湧き出てくる。
なんだこれ!?
凄まじく美味しそう!
ひとくち飲んでみると、……おお!
馬鹿みたいにうまい!
どくんどくん、と脈を感じる。
……血だな、これ。
でも、神話に出てくる神の酒みたいにうまい。
私はひと口で虜になってしまった。
うますぎて、飲み続けたら不老不死になれそうな予感さえする。
ということで、遠慮なくガブ呑みする。
腹が膨らんでいくのを感じるな。
でも、息苦しさとかはないな。
尻呼吸って便利だ。
『種族レベルが上がりました。【Lv.1>Lv.16】』
おっ、なんだか知らないがレベルアップだ。
血を飲むことで経験値をゲットした感じ?
ま、レベルが上がったところで、ダニはダニだけどな。
『スキル【暗視】【遠視】【闇夜纏】を獲得しました。』
今度はスキルを獲得ときたか。
ホント、ゲームみたいで現実感ないな。
暗視や遠視というと、ふくろうのスキルだよな。
もしかして、血と一緒に宿主のスキルを奪えるの?
ダニって欲張りだな。
今、私はどんなスキルを持っているんだろう?
スキル【解析】で自分を解析すれば、っと。
『【解析】【傷口拡大】【治癒阻害】【血液操作】【痛覚鈍化】【飢餓耐性】【振動感知】【熱量可視化】【真空耐性】【遠視】【暗視】【闇夜纏】――』
なんかいっぱい出てきたな……。
漢字ばっかで頭が痛い。
さっきズブズブと牙を刺し込めたのは【傷口拡大】のおかげか。
でも、【飢餓耐性】ってのは嘘っぱちじゃない?
さっきまで私、お腹すきすぎて死にそうだったぞ。
それこそ、落ちてるふくろうにかじりつくくらいにさ。
飢餓感に耐えれば、飲まず食わずでも1年くらい大丈夫って意味か?
体は我慢できても、精神のほうが持ちそうにないな。
そうだ!
自分自身を解析できるなら、自分の種族もわかったりしない?
そこんとこ、どうなんですかね。
解説の【解析】さーん?
『分類名【魔ダニ】』
『種族名【コツブヨワダニ】』
『種族レベル【Lv.16】』
おっ、イケる口だねえ。
しかし、コツブヨワダニって……。
なんだその小さくて弱そうな種族名は。
これが私ってか?
デカ粒ツヨダニならOKってわけじゃないけどね。
『スキル【解析】がレベルアップしました。【Lv.1>Lv.2】。解析深度が上昇しました。』
もう面倒くさいな。
今度はなに?
スキルレベルが上がったって?
解析深度ってなんだ?
『種族名【コツブヨワダニ】:世界最小の魔物。鳥類や哺乳類の血を好む。』
あー、なるへそね。
種族名だけでなく、概要まで見えるようになったんだ。
スキルは使うと性能が上がるのか。
んなこたぁどうでもいい。
私はこの美味しい血を浴びるほど飲みたいよ。
無心でね。
…………ん?
鼓動が聞こえない。
脈が、……止まった?
血が冷めていくのを感じる。
あれ、全然美味しくなくなったな。
もしかして、このふくろう、死んじゃった?
私が血を吸いすぎたせいだろうか。
牙を抜き、羽毛を這い上がって上を目指す。
硬いところをよじ登ると、エベレストの頂上みたいなところに到着した。
くちばしの先端だろう。
【遠視】発動っと。
おお……っ!!
急に世界が広がった。
でも、どこかはわからない。
見たままを言えば、夜の森だ。
大きな木の下に私はいる。
下を見ると、ふくろうが死んでいた。
胸元に赤い線が見える。
刀でざっくり斬りつけられたみたいな傷跡だった。
兄弟たちもいっぱいいるな。
私たちは傷ついて落ちてきたふくろうに群がっていたみたいだ。
さて、ここで疑問がひとつ。
このふくろうは、どうして怪我をしたでしょうか。
私は背筋が粟立つのを感じて上を見た。
そこには、巨大な口があった。
牙の並んだ口が私めがけて落ちてきた。
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