19 トホホ……
パラパラ、と石の欠片が降ってくる。
壁にあいた大穴の向こうでレオは身動きひとつしていない。
死んでは……ないよね?
伸びているだけだと思いたい。
「う、そだろ、マジか……」
「あのレオちゃんをワンパンでノシやがった……」
「なんてパワーしてやがる。ダニエルさん、想像の100倍やべえぞ」
冒険者たちが見てくる。
怪獣を見るみたいな目で。
私自身、そう思う。
怪獣にでもなった気分だ。
脳天にかかと落としを食らっても、側頭部に渾身の跳び蹴りくらっても無傷。
パンチ1発でレオが吹っ飛び、壁には大穴。
なんだこれ?
私はいつの間に鉄腕超人になったんだ!?
「むぅぅ……」
畏怖の視線にさらされながら考えること十数秒。
私はひとつの可能性に行き当たった。
……レベルか?
もしかして、レベル差が原因だったりするのか?
ガルススは私の影響で現在Lv.50相当の力がある。
レオが30だから、その差は20だ。
ステータスにもそれだけの差があると見るべきだろう。
レオの攻撃は私に届かないけど、私が軽く殴っただけでレオにとっては致命傷になる。
これって、レベル制ゲームあるあるだよな。
レベル差が離れると、プレイヤーの技量なんて関係なくなるのだ。
かすっただけで一撃死なんてよく見る光景だ。
私は腕を曲げて力こぶを作ってみた。
こうしていると、まったく実感が湧かない。
でも、Lv.50の人間ってこんなに強いんだな。
その気になれば、素手で冒険者ギルドを解体できそうだ。
この分だと、レベルが5離れると勝負はかなり厳しくなるぞ。
今後の参考にしよう、うんうん。
なるべくレオのほうを見ないようにしながら満足げに頷く私である。
「やはり、ダニエルさんはさすがです。『赤犬』を一人で蹴散らしただけのことはありますね」
爽やかな風が吹いた思ったら、傍らにフリッシ君が立っていた。
お椀にした両手いっぱいに銅貨や銀貨をあふれさせている。
「へえ。最近話題の山賊団を一人でやっちまったのかい」
「そりゃ強いわけだ」
「とんでもない新人がやってきたわね。ちょいと年季がアレだけど」
「皆さん、僕の言ったとおりになったでしょう。ダニエルさんの圧勝だって」
「だなぁ。さっすがフリッス商会の坊ちゃんだ」
フリッシ君は得意げな顔で革袋に硬貨をしまい込んだ。
なるほどね。
その金は賭けの勝ち金か。
羨ましい。
半分よこせオラ。
「皆さんはレオさんを推していたようで、持ち合わせ全部投じたら7倍になって返ってきました」
有り金みんな突っ込んだんか。
君、なに?
ギャンブラー見習いだっけ?
まぁ、投資は半分ギャンブルだ。
私の勝ちを手堅いと読み、資金を増やすことに成功したのなら商才アリってことなのかもね。
危ういから、この人の下では働きたくないけど。
「ダニエルさん、これは滞在費用に使ってください」
フリッシ君は私の手を取って革袋を握らせた。
そして、私の手を包み込むようにして、上目遣いに見上げてくる。
「……まあ、そのいろいろとお金が入り用になるでしょうから」
「ああ、助かる」
でも、手を離してくれないかな!?
いちいちドキドキさせやがって。
天然タラシかあんたは。
おっさんをからかうんじゃないよ、まったく。
「あら、ダニエルさん。ずいぶんとまあ仲良さそうに話されて」
スウィーテ先輩が穴の向こうでピキっている。
私、おっさんなんだが。
別に女の子じゃないんだから嫉妬しないでくれ。
「いやあ、ダニエルさんはやっぱりすごい人でしたね。わたし、ダニエルさんを担当できてよかったです」
パイセンの横からルヴィちゃんが顔を覗かせた。
……あれ、なんだろう?
ルヴィちゃんまでピキってる気がする。
二人の受付嬢が笑顔で怒髪天をつく様はレオにゃん以上に恐ろしいものがある。
「ところで、ダニエルさん」
「あ、はい」
「壁の修理代、ダニエルさんに請求しますね!」
「あ、はい……」
私はガルススの顔で苦笑いした。
フリッシ君がいろいろ入り用になると言ったのはこのことか。
いや、これはキツイなぁ。
私、焼き鳥1本買えないのに。
いくらするんだろ、これ。
トホホ……。
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