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18 銀豹族と勝負


「ここでいいわね! さっさと始めるわよ!」


 冒険者ギルドを出て角をひとつ折れたところで、レオは私を突き放した。

 そして、少し距離を取ってから指をパキパキ鳴らし始める。

 当たり前のように冒険者たちもついてきた。


「レオとダニエルさんが喧嘩だってよ! ギャハハ!」


「新星同士の潰し合いか? こりゃ見ものだな」


「やっちゃえレオにゃーん! ダニエルさんも負けるなー!」


 おのれ、暇人どもめ……。

 おっさんとケモ耳娘のストリート・ファイトなんぞ面白くもないだろうに。

 ……いや、だいぶ面白いか。

 町中で見かけたら私も見入っちゃうかもしれない。

 特に、美少女が馬乗りになっておっさんをタコにする展開は熱いな。

 この場合、タコられるのは私だけどな。


「なんだいなんだい? 喧嘩かい?」


「おうよ、ファウート名物、新参冒険者同士の格付けマッチだ!」


「東ィ、銀豹族の美少女ォ、みんなのアイドル、レオにゃんちゃーん! 西ィ、スキルてんこ盛り超新星ェ、完熟ルーキー、ダニエルさんん~!」


「ほら、はったはったー!」


 賭けまで始まったよ。

 ファイトマネー、ちゃんとくれるんだろうね?


「シュッ、シュ! シュシュッ!」


 対戦相手のレオにゃんは楽しそうに拳を走らせている。

 銀豹族か。

 冒険者たちの話を聞く限りだと、腕の立つ種族らしいな。

 いわゆる戦闘民族というヤツだろうか。

 そんな子と喧嘩したくないなぁ。


「ルールは簡単よ! ボコったほうが勝ち! 死んだほうが負けね!」


 レオは喜々としてそんなことを言っている。

 勝たなきゃ死ぬってさ。

 なにそれ楽しそう……。


「やらなきゃダメか? 私ものすごく嫌なんだが」


「やりたくないってんなら別にいいわ」


「そう?」


「やるまでボコるけど」


「あ、そう……」


 どうもボコられるのは確定らしい。

 はあ、と私は重い息を吐き出した。


「ダニエルさん、頑張ってください! 僕はダニエルさんに賭けました!」


 フリッシ君が爽やかな声援を送ってくる。


「賭けとかやめなよ。君は商人目指すんだろ。手堅いのが一番だよ?」


「これは手堅い賭けですよ。僕はダニエルさんの勝利を確信しています。これでも、人を見る目には自信があるんですよ!」


 その自信、勘違いだぞ?

 君の目は山賊団の親玉を命の恩人だと見間違うくらいの節穴だもの。


 でもまあ、人間同士のバトルにはちょっと興味があるんだよね。

 自分の実力を知るチャンスでもある。

 どうせ傷つくのはガルススの体だし、【痛覚鈍化】があるから私は痛くもかゆくもない。

 超新星と言われるレオに胸を借りる機会は貴重だ。

 ちょっとだけなら付き合ってもいいかな。


「可哀想だから、武技は使わないであげるわ!」


 そう言うと、レオは拳を握って腰を落とした。

 私もなんか中国拳法っぽい構えを取る。

 あちょー。


 素手VS素手のステゴロ勝負だ。

『奇剣』は使えないけど、ガルスス君は強いし大丈夫だよね?


「……」


「……」


 私とレオの睨み合いが始まると、ギャラリーは水を打ったように静まり返った。

 風がビューと通り抜けて、誰かが落とした硬貨がキンと音を立てる。

 それが、始まりのゴングだった。


「ぶっ潰すッ!」


 次の瞬間にはレオは私の懐の中にいた。


「はっや……」


 細い腕が伸びてきて、私の胸ぐらを掴んだ。

 逆の拳が石のように固められる。


 私は手刀で自分の服を切り裂いた。

 レオの拳が鼻先を通り抜ける。

 息つく間もなくブンブンと右から左から拳が飛んでくる。

 目を回しているうちに、後ろは壁だった。

 レオが右手を弓のように引き絞った。


 ……デカイのが来る!!

 ヤババ!


 私は壁を蹴って宙返りした。

 すぐ真下で車が突っ込んだような音がする。


 おっわ、嘘だろ……。

 レオの右手が石の壁に食い込んでいた。

 肘のあたりまで、だ。

 あれで殴られたら頭、潰れちゃうって。

 ひええええ……。


「こら! 逃げるな! 逃げたら殴れないじゃないの!」


「殴られないように逃げているんだよ!」


「逃げられないように殴ってやるわ!」


 何がそんなに楽しいのか、レオはダイヤモンドみたいに目を輝かせている。

 一方、私は拳の雨をさばくので精一杯だ。


「オラオラどうしたー! 逃げてばかりじゃ勝てねえぞぉ、ダニエルの旦那ぁ!」


「やっぱレオにゃん強ぇえ! 力任せに見えて、隙がひとつも見当たらねえ!」


「しっかり壁に追い込んでいく立ち回りも巧いわ!」


「これはダニエルさん、厳しいか!?」


 レオにはぜひ、見物人のアホどもを殴ってほしいところだ。

 面白がりやがってバカヤロー。


「ちょこまかすんなッ!」


 レオが崩れた石材を蹴って寄越してきた。

 私はそれを難なく躱して、次の攻撃に備える。


「……ぅッ?」


 なんだ!?

 何か足にぶつかって……。

 視線を落とすと、躱したはずの石材がそこにあった。


 ……そうか。

 壁に当たって、跳ね返ってきたのか。

 狙ってやったのか?

 だとしたら、とんでもないセンスだ。


 私はバランスを失って片膝をついた。

 隙アリとばかりにレオが猛然と詰めてくる。

 回避は、……間に合わない!


 レオが拳を振りかぶったのを見て、私は腕を盾にして守りを固めた。

 その腕をレオが鷲掴みにする。

 身軽な体で地面を蹴って舞い上がり、長い脚がくるっと回った。


 かかと落としだった。


「ぁぐ……!?」


 脳天を直撃。

 世界がぐらんと揺れた。

 衝撃が首から背骨を伝って地面に抜けていく。

 死んじゃった!?

 私、死んじゃった!?


 でも、……ん?

 あれ?


 なんだろう?

 思ったほど痛くない。

【痛覚鈍化】の恩恵はもちろんあるだろうけど、それにしても思ったほど強い衝撃じゃなかったな。

 倒れてもいないし。


「な、なんで……!? フルで入ったのに……」


 レオも目を見開いている。

 なんでだろうね。


 私はすくっと立ち上がってパパッと砂埃を払った。

 頭は潰れていない。

 骨も折れていないね。

 よかったー。


「ふ、フン! あんた、意外と硬いじゃない!」


レオはすまし顔を気取るが、動揺を隠しきれていない。

 でも、そうだね。

 私も自分で思っているより頑丈みたいだ。


「意地でも仲間にしてやるわ。絶対屈服させて泣いてるとこ、いっぱい踏んでやる!」


 仲間とは?

 そんな疑問が私の中に浮かんできた。

 そして、もう一回、ため息をつきたくなった。

 この勝負さぁ、レオが勝つまで終わらないやつだよね。

 だって、勝つまでやるって顔しているし。


 次の一撃で負けてあげるか。

 お腹すいた。

 それと、もう面倒臭くなっちゃった。


 げんなりする私など意にも介さず、レオは犬歯を輝かせた。


「手加減抜き! 魔力全開、本気でいくから!」


 おーおー、そうしろそうしろ。

 私を派手にぶっ飛ばしてくれ。

 それで、試合終了ってことで。


「この世界は強者絶対よ! あんたをねじ伏せてあんたのすべてを奪ってやる!」


 もうね、将来の仲間に言うセリフじゃないのよ。

 どっちかというと山賊わたしのセリフなのよ。


 レオが助走をつけて突っ込んでくる。

 さあ、来ぉーい。

【痛覚鈍化】で受けて立つぜ、カモン!


「ぶん殴るッ!!」


 とか言いつつ、レオは体をひねって私の側頭部に長い脚を叩きつけた。

 世界がガツン、と揺れる。

 てっきり私は吹き飛ぶものだと思った。

 2回転半に3ひねりを加えて壁にめり込むハメになると。


 でも、私の体は微動だにしなかった。

 波を砕く消波ブロックのように、2本の脚でどっしりと立っていた。


「な……」


 目の前にレオの顔が見えた。

 上下逆さまだ。

 蹴ったはずの頭が飛んでいかないものだから、空中でバランスを失っているらしい。

 渾身の大技は後隙もデカイのだ。


「えいっ」


 私はグーを振り抜いた。

 拳がレオのみぞおちに突き刺さる。

 そして、――びゅーん。

 なぜかレオがサッカーボールみたいに吹っ飛んだ。


 ずっごーん。

 レオは冒険者ギルドの壁をぶち破ってカウンターテーブルに突っ込んだ。

 だらん、と首と腕が垂れる。

 それっきりウンともスンとも言わなくなった。


「……マジか」


 私は自分の拳を見て呆然と立ち尽くすのだった。


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