16 銀の髪の少女
「では、最後の質問です! ダニエルさんは、どんなジョブを希望しますか?」
私を取り囲む冒険者たちの喧騒に負けない声で、ルヴィちゃんがそう尋ねてきた。
「ジョブってどんなのがあるの?」
「剣士や魔術師、弓使いを中心に、治癒術師や荷運び、地図師などいろいろありますよ?」
守備位置を決める感じか。
「じゃ、剣士で」
奇剣より【かまいたち】のほうが使い勝手がいいけど、かまいたち師とかないしな。
「では、【剣士】で登録しておきますね! これで、冒険者登録完了です! 冒険者カードを発行しますので、少々お待ちくださいっ!」
キラキラの笑顔でペコリと一揖し、ルヴィちゃんは奥の部屋に引っ込んでいった。
私も連れてってほしい。
なんか、周りの冒険者たちが鼻息を荒くして押し寄せてくるのだが。
「なあおい、ダニエルさん! うちのパーティーに入っとくれよ!」
「うちだ、うち! ちょうど腕のいい剣士を探していたんだ!」
「そんなムサい奴らじゃなくて、あたいらと来なさいよ! 損はさせないわ!」
わーお、引っ張りダコ。
どうしよう。
右も左もわからないから、仲間は欲しい。
でも、仲良くなるほど身バレのリスクは高まるしなあ。
難しいところだ。
「どきなさいよ! あんたたち!」
張り倒すような鋭い声が響いて、冒険者たちが静まり返った。
「あたしが通るわ! 道を開けなさい!」
海を裂いたモーセのごとく人ごみを蹴散らして銀髪の少女がやってくる。
威圧的な声とは不釣合いなほど、小さな子だった。
でも、迫力がすごいな。
猛獣みたいな目が、顔に穴あけンぞゴラァ、って感じで睨みつけてくる。
いや、そんなことどうでもいい。
耳。
この子、耳があるぞ。
頭の上に猫みたいな三角耳が。
ケモ耳だ。
尻尾もある。
町でエルフっぽいお兄さんやドワーフ風のおばさんを見かけたあたりからそうじゃないかと思っていたけど、この世界、ケモ耳娘アリの世界みたいだ。
あと、この子、可愛いな。
目つきが最悪なのを除けば、めちゃめちゃ美少女だ。
見とれているうちに、気づけばケモ耳ちゃんは目の前にいた。
受付に用があるのかな?
私はごめんよごめんよって感じで横に退く。
すると、ケモ耳ちゃんはミサイルみたいに私をホーミングしてきて、……あら、あらら!?
あっという間に私は壁際だ。
銀の瞳がギロッと音を立てた。
「あんた、誰よ?」
いや、こっちのセリフだ。
とか言うと殴られるか蹴られるかしそうだから、私から名乗りを上げよう。
「ダニエルだが」
「フン! 知らない名前だわ!」
さいですか。
で、君は?
「レオシュテルケパルト・フォルスアールよ」
ごめん。
1回じゃ無理そう。
「レオでいいわ!」
胸の前の銀髪を煩わしそうに後ろに撥ねのけると、レオは私の胸ぐらをむんずと掴んだ。
そして、ググイッと自分のアイレベルまで引き寄せる。
力、つっよ。
「ルヴィに見初められるなんて、あんた、少しは見所がありそうじゃない! あたしの手下にしてあげるわ!」
「いや、お断りの方向で」
「黙りなさい!」
ビシッ!
銀の尻尾でぶっ叩かれた。
けっこう痛いの、なんなの?
「あたしとあんたが出会ったのは運命よ! 黙ってあたしのものになりなさい!」
「なんだ、そのプロポーズ……」
「さっそく依頼に行くわよ。軽くドラゴン退治でいいかしら」
「絶対嫌なわけだが」
胸ぐらを掴まれたまま引きずられる可哀想な私など歯牙にもかけず、レオは掲示板におっかない目を走らせている。
どうも依頼書が貼られているらしいね。
「あの子だろ、ほら」
冒険者たちが遠巻きにレオを指差している。
「ああ、『六怪』を倒すとか豪語している子だな」
「やたら喧嘩っぱやいって聞いちゃいるが、やっぱ挨拶代わりに噛みつきそうな顔してんなあ」
『六怪』ってなんだろう?
そういえば、ガルススも『六怪』がどうのって言っていたっけ。
「レオにゃんか。可愛い顔して14歳でLv.30だろ? 何食えばそうなるんだよ。才能こええ」
「あの銀豹族の出だってんだからな。才能はたしかだろうさ」
「オレなんて今年25でまだ10レベだかんな?」
「マシだろ。30で7レベのオレより100倍なぁ」
「ま、若くして強くなっちまった奴は伸びがちだよな、鼻」
「典型例だな、レオにゃんは」
「あれだけの才能を持ってんのに、どのパーティーにも入れてもらえないらしいぜ」
「よっ、ファウートのじゃじゃ馬娘!」
ブチッ、と隣で音がした。
私は恐る恐る音の主を確認したが、そこにレオの姿はなかった。
ゴ――ッ。
別の方向からすごい音がした。
悲鳴も一緒だ。
ま、見なくてもわかるな。
陰口はよくない。
つまり、そういうことだ。
綺麗な弧を描いてカウンターテーブルに落下する冒険者と拳で天を突くレオを見て、私はつくづくそう思った。
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