15 超新星
「あれ? ダニエルさん、そのネックレスって魔道具ですか?」
冒険者登録用の書類を並べながら、ルヴィちゃんは人懐っこく首をかしげた。
私、ネックレスなんてしてたっけ。
と、首元に手をやると、たしかにジャラっとしたものが巻かれている。
ガルススがどこぞの富豪から奪ったものだろう。
「なぜ魔道具だと思うんだ?」
私はそもそも魔道具が何かすら知らないけどね。
「そのネックレスに……いえ、正確に言えば、ダニエルさんの首の後ろに妙な反応が見えるので」
私の背筋がぞわっと粟立った。
魔力量を可視化するスキルか。
ダニの魔力まで見えるとは。
どうしよう、私、大ピンチなのでは!?
「そ、そうなんだ、ちょっと魔道具でな」
それっぽく言い訳するスキルが欲しいとか思いながら、私はテキトーなことを言った。
「そうですか。それにしては、すごい魔力量ですね。小さいですけど、ダニエルさんよりも強い魔力を感じます」
そうなの?
私って、もしかして才気あふれるダニだったりする?
レベルも100だし。
コホン、とスウィーテ先輩が咳払いした。
ルヴィちゃんはハッとして、両手をわたわたさせる。
「あっ、あっ、すみません! 冒険者の世界では詮索は御法度なんでした!」
暗黙の了解に救われたな。
パイセンも助け舟、さんきゅー。
「冒険者登録をするために、いくつか質問をしていきますね」
どんと来い!
「ダニエルさん、特技はありますか?」
特技か。
最初に思い浮かんだのは、あれだった。
「【解析】というスキルなら使えるのだが」
「……え!? か、【解析】ですか!?」
ルヴィちゃんが目を皿にするのに合わせて、冒険者たちから驚愕の声が上がった。
「私、何か変なことを言っただろうか?」
「変じゃないです! でも、【解析】ってすごいスキルなんですよ!? ものすごく頭のいい人にしか発現しない超レアスキルなんです!」
ものすごく頭のいい人?
間違いなく私じゃないな。
でも、そっか。
私はものすごく頭のいいダニではあると思う。
読み書き算術ができて、歌って踊れるダニなんて世界中を探しても見つかるまい。
私を除いて、ね。
だから、【解析】スキルを扱えるのだろう。
「でも、どうして、【解析】持ちのダニエルさんが冒険者に?」
カウンターテーブルから身を乗り出したルヴィちゃんが私の顔を覗き込んだところで、――コホン。
二度目の咳払いが飛んできた。
詮索禁止っていいね。
ワケありの私には、冒険者は都合がいいや。
ルヴィちゃんは仕切り直して訊いてくる。
「ほかに特技はありますか?」
「あるぞ。スキルでよければ、ほかにも【かまいたち】や【敏捷】なんかを習得している」
私は指の先から【魔爪】を伸ばし、闇の衣を羽織って見せた。
「うぇえええ……!?」
「ちょ、ええ!?」
またしても、ルヴィちゃんが驚愕する。
今度はスウィーテ先輩も一緒だった。
ついでに、冒険者たちが総立ちになって私を見ている。
一体なんだってんだ!?
「え、スキルを5つも持っているんですか!?」
「5つどころか、20個くらい持っているが?」
「うぇええええ!?」
さっきから何?
私が理解できないところで驚くのやめてくれないかな。
もしかして、かなり変なこと言っているか、私。
うちのペットは七色のティラノサウルスです、みたいな。
「普通、スキルは1人につき1つまでなんですよ? スキル自体、持っている人は稀なんですから」
そうなのか。
知らなかった。
私は最初からスキルを9つ持っていたんだが。
魔ダニは持てるスキル数が多いとか?
弱い生き物ほどスキルに頼って生きているのかもね。
「あと、いちおう武技も使えるんだが」
私は腕と剣をタコみたいにうねらせた。
勢いに任せて全部出しちゃえ! って感じだ。
今度は驚嘆の声は聞こえてこなかった。
みんなシーンとして、私を見つめている。
そして、次第にざわついてきた。
「こりゃとんでもない新人が現れたぞ」
「おい、あいつ何者だ? 誰か知っている奴はいねえか!?」
「冒険者の世界じゃ、たまにいるんだよな。こういう超新星みてえな奴が」
そして、今頃になって私は思い出した。
目立たない方針が蔑ろになっていることに。
わらわらと群がってくる冒険者たちを前に、カメレオンみたいに目を回す私であった。
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