12 人間の町へ
ついに手に入れてしまった。
人間の体!!
私は今、メダルを獲得したオリンピアンのごとく天に拳を突き上げ、歓喜に打ち震えている。
「やっほー!! 人間最高おおお! ダニも最高おおお!!!」
久しぶりに声も出せるぞ。
声帯が震えるこの感じフゥゥゥゥッ!
たまんないぜェェェェ!
……可愛さの欠片もない胴間声だけどな。
おっさんとはいえ人間の体だ。
華の女子高生がベストだけど、贅沢は言うまい。
どんな体でもダニよりマシさ。
今も私の本体はダニだけどね。
それに男モノのボディーのほうが運動性能は高いはず。
デンジャラスな異世界で生き抜くことを考えれば、かえって好都合というものだろう。
「あ、だだだだ……」
飛んだり跳ねたりしていた私は腕を押さえてうずくまった。
【かまいたち】で斬りつけたところがひどく痛む。
こんなときは、【痛覚鈍化】だ。
【血液操作】で止血して、あとは布でも巻いておくか。
【治癒阻害】をOFFにしておくことも忘れずに、だ。
『スキル【宿主支配】がレベルアップしました。【Lv.1>Lv.2】』
ガルススを乗っ取ったことで、経験値が入ったみたいだ。
それで、どの辺が変わったんだい?
『レベル反映率が上昇しました。【33%>50%】』
ふむ?
50パーか。
ふむふむ。
ということは、私の実力は現在、ガルススLv.50相当ってことだな。
本家を超えちゃったよ。
本人より私のほうがこの肉体をうまく操れるってわけだ。
ガルスス、めちゃくちゃ悔しいがるススだろうな。
意識があるならば、だけど。
「さて、これからどうしよっか……」
死体が転がる夜の街道。
ぽつーんと取り残されている私は寂寥感の真っ只中にあった。
寂しさを押し殺して、うーんと考える。
人間の体では森暮らしは厳しいよな。
怪我もしていることだし。
町を目指すべきだろう。
問題なのは、右に進むべきか、左に進むべきかだ。
私はこの辺りの地理に疎い。
ガルススなら何か知っているだろうけど、頭を振っても叩いても彼の記憶を引っ張り出すことはできなかった。
体はともかく、脳へのアクセス権限は持っていないってことか。
「馬車は右の道に行ったよな」
逃げる者の心理としては、なるべく早く安全圏に避難したいはず。
つまり、右が近道と見た。
「にゃー」
私の脚にシックルテールの子猫が体をこすりつけている。
「おお、無事だったかお前~!」
よーし、よしよし、となでてやる。
こいつ、さっき殺されかけたのに、ガルススのことを警戒していないな。
私が支配していたときの記憶はないのか。
宿主は眠っているような状態なのかも。
「ん? お前、いつの間にかLv.14になっているじゃないか」
強敵ガルススとの死闘をくぐり抜けたんだ。
レベルアップは当然だな。
成猫より高レベルだし、一人でも巣まで帰れるだろう。
血、美味しかったぜ?
ありがとな!
「それじゃ、あばよ!」
「にゃん!」
私はシックルテールの子猫に手を振って、街道を歩き始めた。
◇
「奇剣【九頭竜】――ッ!!」
街道を歩いていると、ちょくちょく魔物に出くわした。
昨晩、私が山賊を血祭りに上げたから、血の匂いで魔物たちが活気づいているみたいだ。
9本のワイヤーが熊の魔物を鳥籠のように囲んで、ズタズタに切り裂いた。
サイコロステーキのできあがりだ。
『武技』とは、やはり武器を使ったスキルのようなものらしい。
ガルススを乗っ取ったことで、私も彼の武技を使えるようになった。
ただ、シックルテールだったときの【着地術】や【アクロバット】は使えなくなってしまった。
『奇剣』を使えるのは、この体に入っている間だけってことだ。
たぶん、体が覚えているのだろう。
私はそれを引き出せるわけだな。
ガルスス君、私のために頑張って練習してくれてありがとね。
大事に使わせてもらうよ。
そうこうしているうちに、町が見えてきた。
だろうなぁとは思っていたが、やっぱり城壁に囲まれている。
魔物や山賊がいるとそうなるよね。
城門の前には衛兵っぽい人たちの姿もある。
寄生していることがバレないようにしないと。
人間に寄生して体を乗っ取るダニだぜ?
見つかったら殺虫剤をぶちまけられるだけじゃすまない。
そういえば、私は山賊の親玉だったな。
けっこう強かったし、手配書が出回っているかも。
いちおう変装しておくか。
私は長いざんばら髪を後ろで縛り、死体から剥ぎ取った衣服に着替えた。
少し顔はおっかないけど、馬子にも衣装だ。
さっきより山賊感は薄れただろう。
では、張り切って行こう。
人間の町へ――!!
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