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10 VS山賊


 いざ、山賊に挑まん。


 スキル【暗視】を使うと、夜の森が昼間みたいに明るくなった。

 山賊たちの動きや飛び散る血の一滴までよく見える。


 ところでさ。

 猫の体が傷ついても、本体わたしは傷つかないよね?

 いちおう不安だから用心していくか。


 私はスキル【闇夜纏】を発動した。

 体を闇のベールが覆う。

 これを使うと、周りから見えなくなるらしい。

 暗い場所限定だけどね。


「にゃっ!」


 私は枯れ木を蹴ってダークヒーローのように街道に舞い降りた。

 ぶつかり合った剣同士が火花を散らしている。

 怒鳴り声と悲鳴で目が回りそうだ。


 山賊の人たち、みんな強そうだな。

 おっかない顔しているし。

 でも、何も全員を倒す必要はないのだ。

 山賊たちを怯ませて、馬車の人たちが逃げるチャンスを作る。

 それだけでいい。


 私は山賊団のド真ん中に極太の【かまいたち】を叩き込んだ。

 真空の刃が地面に線を引きながら直進し、


「……ほぇ?」


 進路上にいた山賊を両断した。

 ぽかーんとした顔が左右に分かれて倒れる。

 ぐっろ……。

 そして、【かまいたち】めっちゃ強いな。


 私は【アクロバット】で2回転しながら真空の2連撃を放った。

 山賊が血煙を上がる。

 もげた手脚がきりもみしながら飛んでいった。


「な、なんだ!?」


「何かいるぞ……! おいい!」


「うおおお、なんだってんだ、おおおお!」


 山賊たちは恐慌状態に陥って、闇雲に剣を振り回し始めた。


 真っ暗な中、何もないところから急に斬りつけられるんだもんな。

 想像するだにゾッとする。


 うおっと。

 目の前を剣が横切った。

 まぐれで当たったらと思うと怖いな。

 でもまあ、この肉体は私のじゃないしな。

 いざとなったら宿主からだを捨てて逃げればいい。

 誰も逃げ出すダニを追いかけたりしないだろう。

 踏まれないように注意は必要だけど。


 というわけで、私は風の刃を飛ばしまくった。

 思った以上に楽勝だな。

 これなら、寝そべって尻尾だけ振っていても一掃できそうだ。


 山賊を【解析】してみる。

 レベルはだいたい6前後か。

 高いのか低いのか判断がつかないな。


「皆さん! 今のうちです! 防御を固めつつ後退を!」


 青っぽい髪の青年が、倒れた戦士に肩を貸しながら指示を飛ばしている。

 若いけどリーダーなのかな?

 爽やかタイプのイケメンだ。

【暗視】なしでも一人だけ輝いて見える。

 ベストは女の子だけど、ここには男どもしかいない。

 どうせ寄生するなら私、あのイケメンがいい。


 ……と思ったが、イケメンの人たちは馬車を引き起こして闇の向こうに逃げていった。

 逃がしといてなんだけど、戻ってきてぇマイ・ボディー。


「お、お前ら! おチチケ、おち、落ち着け! 馬車がいっちまうぞ! 逃がすな、矢を射掛けろ!」


 させるか!

 逃げる背中を狙う山賊を【かまいたち】で弓ごと両断する。

 敗走を始めた山賊を横一文字で薙ぎ払うと、うるさかった街道に一転して静寂が訪れた。


 結局、私だけで完封しちゃったな。

 シックルテールつっよ。


 私は街道の真ん中に立って辺りを見渡した。

 飛び散る血しぶき。

 転がる首。

 グロテスクなはずなのに、なぜだろう?

 美味しそうにしか見えない。

 焼きたてのお肉が肉汁を飛び散らせているようにしか見えないのだ。


 全身でダイブしたい。

 真っ赤に染まって転げ回りたい。

 めっちゃ美味しそうだ。

 もっと血が欲しい!

 ダニの欲求、やばいな!


「おいおい、全滅じゃねえか。なんだこりゃ」


 突然の声に私はギョッとして身をすくめた。

 まだ誰か残っていたか。


 茂みをかき分けて男が一人、姿を現した。

 三十路くらいのおっさんだ。

 場違いなことに、酒瓶にくぴくぴと吸いついている。

 千鳥足だ。

 顔なんて熟れた柿みたいに赤い。


 でも、通りすがりの酔っ払いってわけじゃなさそうだ。

 腰には剣を帯びている。

 あと、これはダニの勘だけど、この人たぶん、かなり強いぞ。


「襲う側が襲われてどうすんだボケどもォ」


 下半身がなくなった山賊を足蹴にして、冷やかすような声を上げている。

 死体なんて見慣れてますって感じだな。


「が、ガルスス団長ぉ……。オレら、急に斬られて。血が、血が止まらないんす。助けてくだせえ」


 体が3分の2になった男が這いずってきた。

 団長か。

 じゃあ、あの酔っ払いが『赤犬』のリーダーなのか。

 どうりで強そうなわけだ。


「おうおう、助けてやるぜェ。このへん刺しときゃいいかァ?」


 ガルススがいきなり手下を刺した。

 背中に剣を生やして絶叫すると、手下は電池が切れたラジコンロボみたいに静かになった。


「うっせえんだよ、お前よォ。酔っ払いのそばで喚くんじゃねえっつの。耳がキンキンするだろうがァ」


 ひと振りで血糊を切ると、ガルススは酒瓶を放り投げた。


「ま、オレは静かすぎる奴も嫌いなんだがな」


「……ッ!!」


 私は寒気を覚えて跳んだ。

 すぐ真下で銀の光が弧を描く。

 突風が私を襲って、まとっていた闇の衣が消し飛んだ。

 落ちてきた酒瓶をノールックでキャッチし、ガルススはクッヒャッヒャと笑った。


「すっげえな、お前ェ。今の躱すかよハハッ。手下どもがやられちまうわけだ」


 うーむ、やっぱりこいつ、やり手だな。

 私の【闇夜纏】を見破るなんてな。

 それに、この惨状を見ても動じる様子がない。

 面白がる余裕すらあるくらいだ。

 殺しが日常の一部になっているんだろうな。


「シックルテールの子猫か。別段珍しい魔物じゃねえが、にしてはヤケに強えなァ。Lv.30ってとこだろ。オレとお揃いだな」


 こいつも30なのか。

 Lv.6の雑魚山賊とは別格だ。

 私が勝てる相手か?

 レベル差がどれくらいの実力差になるのかイマイチわからない。

 そもそも、シックルテールの子猫と人間って同じレベルならどっちが強いんだろう?

 わからないことだらけだ。


 でもま、もう馬車の人たちは安全だ。

 危ない橋を渡る必要はない。

 テキトーにあしらって、逃げちまおう。


 ガルススは酒瓶を逆さにして、最後の一滴を舐めとった。


「あーあ、酒もねえ、手下も全滅。大損害だァ。逃げてった商団を追いかけりゃ、まだオレ一人なら黒字になりそうかァ?」


 ゲッ、こいつ、まだやる気かよ。

 なら見過ごせない。


 私は前脚を肩幅に開いて、腰を落とした。


「いいねェ。お前も殺る気満々じゃねえかァ。こんな役立たずどもだが、いちおうオレの手下だァ。仇ぐれえは取らせてもらうぜ?」


 ボス戦開始だ。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます!

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よろしくお願いします!

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