第1話 買物
「さて、明日はガストンの町まで出るぞ。」
「いってらっしゃい。」
夕食を終えたヒュウガが伸びをしながら言った言葉に、フローレンスは気のない返事を返す。
それを受けたヒュウガは、呆れたような声でフローレンスに言った。
「いや、お前ぇさんも行くんだよ。
色々と買わにゃならんモンも多い。
中には下着みたいに、女じゃねぇと買いにくいモンもある。」
「あまり町中まで出たくはない。」
「気持ちはわかるが、ここは堪えてくれ。
じゃないと、せっかくその服をそろえてくれたダニエラのおっ母さんに申し訳が立たんだろう?」
見れば、フローレンスはきちんとした服を着ていた。
質素ではあるが、作りのしっかりした丈の長いディアンドル。
やや明るめのグリーンが、長い黒髪にあっている。
「でもあの人、信頼はできるの?」
スープの皿を持って、洗い場の流しに向かうフローレンス。
その背中に、ヒュウガがノンビリした声で答えた。
「あのおっ母さんなら大丈夫だ。
無愛想だが、親切で口が堅い。
その服だって、わざわざ寸法に合わせて詰めてくれてんだろ?」
「そうね。着心地は良い。」
「『悪くない』なんて言わねぇんなら、それなりに気に入ってるってコトか?
まあいいさ。ここから出ていく事も考えりゃ、今のウチに支度を始めといた方がいいだろう。
もうすぐ収穫祭だ。
祭に入ったら町は大騒ぎだし、終わったらすぐ冬が来る。
冬の寒さの中、町まで出るのはゴメンだからな。」
会話の中、ブランが自分の寝床の中で大きくあくびをする。
再びまどろむブランを見て、フローレンスが尋ねた。
「この子は連れて行くの?」
静かに聞くフローレンスに、ヒュウガもまた静かに答えた。
「それは無理だな。
コイツぁ村では人気モンだが、町中じゃ悪目立ちが過ぎる。
お前ぇさんだって、今は目立ちたかねぇんだろ?」
「そうね。」
「んじゃ、決まりだ。明日は町まで出る。
誰かの馬車に乗っけてもらえば、三十分程度で着くからな。」