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黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第9章 -黒き森-
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第7話 一撃

(クソっ! まるで分厚いクッションぶっ叩いてるみてぇだ!!)


 ヒュウガは腹の中で毒づいた。


(コッチの拳は全ッ然通りゃしねぇ……恐らく気による一撃も無理だ……。

 あのデケェ図体のド真ん中まで、どうやりゃぶち抜ける!?)


 忌々しげな表情を見せるヒュウガのその隣で、シヴァもまた腹の中で苛立ちを募らせていた。


(蜂蜜たぁ嘯いたが、まるでコイツぁ粘土だぜ。

 斬っても突いてもすぐ塞がっちまう上、妙に固いときた。

 コイツの刃はもつだろうが、その前にコッチが息切れしかねねぇ……。)


 考える二人の真ん中を巨人の拳が襲う。


 戦いの場は既に小屋の外へと移っていた。


 ゲシノクは辛うじて攻撃を躱し続ける二人を見て、ケタケタと笑い始めた。


「どうなんだ、お二人さん?

 ずいぶん舐めた口きいてくれたよなぁ?

 絶対! 絶対!! ぜえぇぇぇぇったい許さないからな!!

 死ねよ、ウジ虫のクズどもが!!」


(問題は……。)


 ヒュウガが再び考え始める。


巨人コイツの攻撃が思った以上に鋭いことだ。

 予備動作は大きいが、攻撃の速度自体は洒落になっていない。

 気を練り上げようにも、ここ一番の隙がねぇ……。)


 そこに巨人の右ストレートが飛び込んできた。

 腕に沿わせてその拳をいなし、隙だらけの懐へ気を込めた渾身の一撃を叩きこむ。


 その手ごたえは……。


(ダメだ。いいトコ四割……いや、三割程度しか『通って』いない。

 せめて何か媒介があれば……。)


 ヒュウガのいなしたその右腕へ、シヴァの全身全霊の一刀が襲いかかった。


 だがこれも……。


(ちっ! 押し切れねぇか!!)


 刀を一旦鞘に納め、シヴァもまた考える。


羅刹アイツの一撃は見事だが、表面で威力が拡散しやがる。

 コッチの一撃は深くまで通るが、もう一歩……破壊力が足りねぇ。

 忌々しいが、賭けるしかねぇな……。)


 シヴァは覚悟を決めると、ヒュウガの傍まで一足飛びに近付く。


「おい、羅刹の。」


「何だ?」


「何とかしてヤツの懐をこじ開けてくれ。」


「何をする?」


「捨て身よ。」


「承知した。」


 短い言葉による、僅かなやり取り。


 終わったと同時に、ヒュウガが弾丸のごとき目にも止まらぬ速さで巨人の目の前へと飛び込んだ。


 そこから猛然と始まる連撃。


 拳は乱れ飛び、蹴り足は旋風を呼ぶ。


 気の力による全身の強化によって、鬼神のごとき攻撃が生み出されている。


 シヴァはその動きを目で追っている。

 自身の望む一瞬を、確実に捉えるために。


 一方の巨人は、ヒュウガへ攻撃をしようにもその猛攻があまりにも激しすぎ、隙を見いだせないまま固まっている。


 一瞬、ヒュウガの動きが鈍った。


 そこに生まれる隙を予想し、巨人は大きく拳を振りかざす。


「けぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁっ!!」


 大きく開いた右側面から、シヴァが凄まじい気合と共に巨人の胴体へと刀を突き入れた。


 左の目線に構えた刀を、全身のバネで一気に飛び込ませる一撃。


 だが、その一撃も中心にはわずかに至らない。


 次の瞬間、振り下ろされた巨人の一撃に、シヴァは大きく弾き飛ばされていた。


 がふっと血反吐を吐きつつ、大きく吹き飛ばされるシヴァ。


 その身体は立木に強く叩きつけられ、最早瀕死の体だ。


 それを見たゲシノクが嬉しそうに叫ぶ。


「あぁ、惜しい惜しい!

 もうちょっとで何とかなったのになぁ!

 死ねよ、バーカ!!」


 喜色満面でギャハギャハ笑うゲシノクを無視し、シヴァは喉も破らんといった勢いで大きく叫んだ。


「やれぇっ!! 羅刹ぅっ!!」


「応ぉぉぉぉぉっ!!」


 がら空きの懐には、突き刺さった刀が残されている。


 気合一閃。全身全霊の一撃。


 その回し蹴りを、ヒュウガは刀のその柄頭へと向けた。


 狙い過つことなく、蹴り足は柄頭を捉える。


 ヒュウガが練り上げた気を乗せた刀は、勢いよく巨人の胴体に輝く光点を貫き、そのまま背後に生い茂る一本の立木へと突き立てられた。


 全てが制止したような静寂が辺りを覆う。


 やがて、巨人はわずかに身じろぎをしたかと思うと、ピタリとその動きを止め、ぐらりと大きく背後に倒れ込んだ。


 そこには、ゲシノクが恐怖にひきつった顔で立ち尽くしている。


 直後、その視界は真っ黒な闇へと塗りつぶされていた。


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