第5話 共闘
爆発が集中した辺りの壁は粉々に吹き飛び、小屋は半壊。
ブランがフローレンスを守っていた一角だけが辛うじて被害を免れている程度。
そんな中で彼女を守っていた魔獣の身体には、木々の破片が体のあちこちに突き刺さっている。
身を挺して、ブランはフローレンスを爆破の破片から守っていたのだ。
一方では、千切れた丸太や漆喰の塗られた厚い板、屋根板などの瓦礫の中から、ゲシノクが怒りの表情ではいずり出てくる。
「き、き、貴様ら! ボクを殺す気か!?
『障壁』がなかったら死ぬところだったぞ!!」
そんな怒号などどこ吹く風で、ヒュウガとシヴァは巨人の動向を見定めた。
「ダメか?」
「当然だな。」
シヴァの言葉にヒュウガが答える。
ヒュウガは既に遺跡の巨人がどのようなものなのかを知っている。
こんなチンケな爆発など物ともしないだろう、とヒュウガは確信していた。
事実、爆発の中心にいたはずの巨人は、鈍いながらも動きは先ほどと露ほども変わっていない。
「ありゃ全く効いてねぇな。
あの爆弾に意味はあったのかい?」
「意味はある。
これで動き回れる空間が増えた。
攻めるにしても避けるにしても、十分な広さが欲しいだろう?」
「違いねぇ。」
ヒュウガが身を、ゆるり……と揺らがせた。
「先に行く。」
その一言を残し、ヒュウガは一陣の風になって、巨人に挑みかかっていく。
「おっと、抜け駆けかい?」
それを同じ速度で追うシヴァ。
猛攻が始まった。
拳脚を乱れ飛ばし、巨人の全身に打撃を叩きこむヒュウガ。
また一方のシヴァは、目にも止まらぬ剣技をもって、全身を斬り裂いていく。
対する鈍重な巨人の攻撃は二人になんなく躱され、猛攻は留まる事を知らない。
それでもなお、ゲシノクの顔には余裕の笑みが浮かんでいる。
数分後、肩で息をする二人があった。
「くそっ……どうなってやがる!?」
忌々しそうにシヴァがつぶやいた。
「斬っても斬ってもロクに手ごたえがねぇ……。
まるで蜂蜜でも斬ってるような手ごたえだ。」
見れば、当の巨人は先の爆発でできた穴に足を取られて、立ち上がろうともがいている。
その隙を突いて、シヴァのつぶやきにヒュウガもまたつぶやきで答えた。
「流体金属……。」
「なんだそりゃ?」
「ダチに聞いたことがある。
世の中にゃ水みたいな金属があるってのをな。
あの巨人はなにかそういうものでできてるんだろう。
俺の打撃もまるで手ごたえがねぇ……。」
「どうするよ……このままじゃ、コッチはジリ貧になる一方だ。」
シヴァの言葉を受けたヒュウガの横顔に、一筋の汗が伝う。
その汗が顔から流れ落ちようかと言う一瞬、ゴオッというつむじ風のような声が轟いた。
「弱点は胴体中央!」
その場にいた全員が声の主を探し、その方角へを顔を向けると、そこには満月を背に受けた何者かが、高い杉の木の天辺にすっくと立っていた。