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黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第9章 -黒き森-
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第3話 羅刹

 ヒュウガは瞳を動かして部屋の中をざっと見まわした。


 目に留まったのは素裸で気絶しているフローレンスの無残な姿だ。


 無言のヒュウガの身体から、青白い『気』が焔の如くに立ち上った。


 一歩進む。


 ゴツリ……とブーツの底が鳴った。


 八人の隊員たちは、一斉に壁へと後ずさる。


 また一歩、ヒュウガが近寄った。


 ついに恐怖が隊員たちのなかで爆発した。


「ち、違う!

 あの女をやったのは俺じゃない!」


「手を付けてねぇよ!

 あのキチガイがやったんだ!」


 次々と自身の潔白をぶつけてくる無様さを見たヒュウガが、ようやく口を開いた。


「手前ぇらは……今まで何をやってきた……。」


 その横合いからシヴァが囃すように大声で言う。


「手前ぇ勝手な強盗に強姦、それに殺し。

 好きにしな、狼さんよ。」


 その声を聞いた隊員たちは口々に非難の怒号をシヴァへと浴びせてくる。


 その怒声の中、ヒュウガが小さくつぶやいた。


「ブラン……れ。」


 その言葉と同時に、隊員たちの背後にあった丸木の壁がぶち破られ、『何か』が飛び込んできた。


 おおよその姿はブランの物だったが、全身の筋肉がはちきれんばかりに隆起し、全身から先ほどヒュウガが見せたものと同じ、青白い焔が立ち上っている。


 魔獣――獣の姿を持つ魔物。


 子供たちには決して見せる事のない凶暴そのものの表情で、ブランは静かに隊員たちへにじり寄っていく。


 緊張感……。


 やがて一人が悲鳴を上げて逃げ出した。


 続いて次から次へと逃げ出そうとする隊員たち。


 そんな連中へと、ブランは襲いかかった。


 喉笛に喰らい付き、顔の肉を爪で剥ぎ取り、肋を折り、腸を抉る。


 次々に肉塊となる八人を見つつ、グロスはヒュウガに向けて剣を構えた。


「逃げねぇのかい?」


 そんなグロスの様子を見たシヴァが、静かに尋ねた。


「逃げたところであの魔獣の餌食だ。

 だったら少しでも足掻いてやるよ。」


 シヴァは真剣な表情を見せつつ、祈るように静かに目を閉じた。


「その意気に免じて、楽に逝かせてやる。

 来な。」


 ヒュウガの言葉と同時に、グロスが剣を振り上げて襲いかかる。


 ヒュウガは、そのグロスの攻撃を避けようともせず、切っ先が届く直前に『何か』をした。


 常人の目には、一瞬彼の右腕がぶれたように見えた事だろう。


 だが、その僅か一瞬に、グロスは致命傷の一撃を受け、そのまま倒れ込んでいた。


「エグイねぇ……。

 気を込めた掌打で脳髄を引っ掻き回すたぁ、名前に負けてねぇぜ?

『羅刹の黒狼』さんよ。」


 シヴァの言葉を聞き、ヒュウガが向き直る。


 その顔には。無表情の仮面でも隠しきれないほどの凄まじい怒りが浮かび上がっていた。


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