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黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第9章 -黒き森-
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第2話 交錯する怒り

 小屋の中では、激しい打擲音が鳴り響いていた。


 ゲシノクが憤怒の形相で素裸のフローレンスを鞭打っている。


「貴様が! 貴様が!!

 奴隷の分際で仇だと!?

 ふ、ふ、ふざけるな!

 ボクがどれだけ怖い目に遭ったか、貴様にわかるかっ!!」


 ゲシノクは口から泡を吹きつつ、ただ怒りのままに鞭を振るっていた、


 言葉遣いが幼くなっているのは、これがこの男の本性だからなのだろう。


 美しかったフローレンスの身体は、あちこちが内出血し、皮膚が裂け、場所によっては骨まで見えかねない程にまで傷が達していた。


 それでもその目は怒りに燃えている。


 射殺そうとせんばかりの怒りの視線がゲシノクに向けられている。


「そ、その目はなんだ!?

 もう貴様は終わりなんだ!

 このまま野犬に喰らわせてやる!

 貴様なんか地獄行きだ! ざまぁみろぉっ!!」


 まるで自分の言葉に酔ったかのようにゲラゲラと笑い出すゲシノク。


 そんな様子を、残る十人はそれぞれの思惑で見つめていた。


「全く……あんな上玉を犯せるチャンスなんざ、滅多になかろうに。

 向こうの連中には、強姦なんかでぶち込まれたのもいるんだろ?」


 シヴァが静かにグロスへと尋ねた。


「ああ。

 あの中にも、女子供を犯して殺したヤツが二人ほどいる。

 どいつもこいつも畜生どもだ。」


「じゃあ、なんでらなかった?」


「バカ言え。

 爆薬の上で女なんざ抱けるかよ。」


 グロスの言葉にシヴァが感心したかのように声を上げた。


「おいおい、喋っちまったのか?」


「いざって時に逃げ出せるようにな。

 だが、あのキチガイだけにゃ教えてねぇ。

 ヤツぁ絶対死んでもらわねぇと、コッチの腹の虫がおさまらねぇよ。」


「ふぅん……。」


 シヴァがにやにやと笑いながらグロスの顔を見つめた。


 グロスは怪訝そうにシヴァの顔を見返した。


「何だよ……。」


「いや、ようやく意見が合ったと思ってな。」


「うるせぇやい。

 さて、そろそろあの姉ちゃんをキチガイから助けてやるか。

 こうなったらあのヤロウが何を持っていても知ったこっちゃねぇ。」


 グロスが怒りを満面に湛え、立ち上がってゲシノクの元へ向かおうとしたその時。


 激しい破壊音と共に、へし折られた扉が小屋の中へと勢いよく叩きこまれた。


 小屋の中にいた全員の目が、扉のあった場所へと向けられる。


 そこには、『影の兵士隊(シャッテンクリーガー)』の黒いロングコートをまとったヒュウガが、表情もなく仁王立ちで中の様子を睨みつけていた。


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