第1話 奇襲
フローレンスは白づくめの服で森の中を進んでいた。
動きを妨げないよう、スカートには裂け目が入っている。
目的地は狩人小屋。
己の主だった者を卑劣にも裏切った男を殺すため、雪の中を急いで進んでいる。
やがて目的の小屋が見えてきた。
爆薬の仕掛けはヒュウガに聞いて知っている。
これを起爆させることができれば、連中に相当の痛手を負わせることができる。
小屋からは明かりが漏れている。
総勢十一人。皆、小屋の中だ。
静かに、慎重に、警戒して裏手に回る。
地面の下と床に貼り付けた導火線は目を逸らすためのダミー。
本当の導火線は、ずっと遠くから引っ張ってきているもの。
フローレンスは小屋から数クラム離れたポイントに仕掛けてある導火線に近寄り、そっと火種を近づけた。
「へぇ……コイツは随分と凝った仕掛けだ。」
急に後ろから声が響いた。
そこにはシヴァ・ラスコーが鞘に収めた刀でトントンと肩を叩いている。
フローレンスは無言で短剣を鞘から抜き、逆手で持って胸元で構えた。
その様子に感心したかの声で、シヴァが再び口を開く。
「結構な構えだ。
お前ぇさん『シャーワイユの魔女』だな?」
「何故解る?」
「構えさ。
かなり本気で学ばねぇと、そんな見事に構えられりゃしねぇ。」
フローレンスは、シヴァへと一気に詰め寄り、短剣を振るう。
時には手の中で持ち手を変え、突き、切り、再び突くと見事な連携を見せていく。
そんな彼女の攻撃をシヴァは見事に見切り、十分な安全圏を持って悠々と避ける。
シヴァは、彼女の短剣がどんなものなのかを知っているのだ。
毒――短剣からは、わずかな傷からも死に至らしめる毒が滲み出ていることを。
フローレンスの動きにわずかずつ変化が見え始めた。
疲労か、焦りか、僅かではあるが雑な動きを見せるようになってきたのだ。
素早さのもと構成されていた連携に、一瞬の隙が見えた。
その隙を突いて、鞘によるシヴァの突きがフローレンスの眉間を捉える。
脳を揺さぶられたフローレンスは、そのまま意識を失っていった。




