第10話 感謝
扉からガリガリと音がした。
ヒュウガの小屋、その玄関の扉だ。
カタリと扉を開くと、隙間から猫のようにブランが入り込む。
「首尾はどうだ?」
ヒュウガが真剣な顔でブランに聞くと、目を合わせてグルル……とうなった。
「かかったようだぜ?」
ヒュウガがニヤリと笑って、厨房にいたフローレンスに声をかける。
フローレンスはコーヒーのカップを持って、ヒュウガの元へやってきた。
「そう……。」
カップがそっとヒュウガの前に差し出された。
フローレンスは再び厨房に入り、今度はブランに炙った肉を皿に乗せて差し出している。
「ここからの手筈は?」
彼女からの問いかけを受け、ヒュウガはコーヒーに口を付けつつ、遠い目をして緩やかに答えた。
「できる限り遠くから小屋に火をかけるのが一番だろう。
火薬の罠は簡単に撤去できるものと、かなり難しいモノの二段構えで用意した。
連中の進軍速度が上がったことを計算に入れても、全ての解除はまずできない。
とにかく要注意は、あのシヴァってヤロウだ。
ヤツがゲシノクの護衛に入った場合、俺たち二人がバラバラ……に……。」
ヒュウガの頭の中に靄のようなものがかかり始めた。
警戒レベルが一気に引き上げられる。
だがその警戒心も、深い闇へと引きずり込まれかけていた。
「ブ……ブラン! 肉だ! 肉を……。」
「もう遅い。」
フローレンスが無表情のまま、ヒュウガに告げる。
ままならぬ動きでブランへ顔を向けると、既に意識を失っている姿が目に入った。
「なぜ……だ。」
「貴方には感謝している。
全ての御膳立てを用意してくれた。
後は私がやる。
爆薬を使えば、最低でも刺し違えられるから。」
「バカヤロウ!
お前ぇはシヴァを……甘く……。」
限界だった。
ヒュウガの意識は闇の底に沈む。
彼の耳に、フローレンスの最後の言葉が響いた。
「ありがとう。」




