第9話 狩人小屋
日もまだ高い頃、『壊滅部隊』の一行は洞窟前の開けた広場に出た。
そこには、一軒の粗末な山小屋がポツンと建っている。
隊員達の目に輝きが戻った。
雪の中での野営もない。獣に襲われる心配も少ない。
そんな魅惑的な建物が、目の前に存在している。
だが、グロスは顎の無精髭を撫でながら、シヴァに言った。
「ダメだろうなぁ。」
「当たり前だ。」
シヴァは取り付く島もない風に答える。
「一応調べる。
多分解除が難しい罠が仕掛けられてるはずだ。」
「もし解除できなかったら、どうするつもりだ!」
ゲシノクがキンキン声でシヴァを怒鳴りつけた。
シヴァは、当てこすりのように耳の穴を指で掃除して口を開いた。
「そん時ゃ野営だ。
重労働の前に休息取らにゃ、マトモに働けねぇだろうが。」
八人の隊員に絶望の色が走った。
ボソボソと互いに言葉を交わす隊員たちに向け、ゲシノクが叫ぶ。
「貴様ら! 分け前が欲しくないのか!
ここまで来たら、財宝は目の前なんだぞ!
ああ、解った! 逃げたい奴は逃げろ!
そいつらは犬にでも狼にでも喰われてしまえばいいんだ!」
ヒソヒソ声が少しずつ小さくなっていき、終いにはシン……と静寂が戻った。
そこへシヴァが戻ってきた。
服には雪だけでなく、黒い土もちらほらへばりついている。
「思ったより簡単な罠だったぜ。
何とか仕掛けは外しておいた。」
シヴァのこの言葉に、色めき立つ隊員たち。
隊員達は我先にと、山小屋に向かって一直線に駆け出し始めた。
ゲシノクはその隊員たちをかき分けて、一番に小屋へ入ろうともがいでいる。
その様子をグロスもうんざりしたような面持ちで眺めていた。
「お前ぇさんもいい加減見限りてぇ腹か?」
シヴァが苦笑いを見せてグロスに声をかける。
「全くだぜ。
ここで少し落ち着いて小屋に入るんなら、まだ見直したんだが……。」
「しかしまぁ、現金というか能天気というか……。」
シヴァがくっくっと喉の奥で笑う。
それを見たグロスが、ゴクリと喉を鳴らしてシヴァに向き直った。
「まさか、罠は……。」
「相当量の火薬が仕込まれてる。
ま、表面だけ解除はしたがな。
だが奥の方までやるにゃ時間が足りねぇ。
大体こんな小屋に密集して入り込んじまえば、罠なんて必要ねぇさ。
火矢でも打ち込みゃ一網打尽。俺たちゃお陀仏よ。」
「おい! じゃあなんだってあんなウソを……。」
血相を変えて詰め寄るグロスに、シヴァは冷静な表情で静かに告げた。
「逆手に取るのさ。
俺たちが小屋に入ったとわかれば、その『狩人』は小屋の仕掛けを何とかしようとするだろう。
ソイツが近付いたところで俺が返り討ちにする。
あの連中はエサだ。釣り出せれば御の字さね。」
シヴァがニヤリと笑うのを見たグロスは、背筋にうすら寒いものを感じていた。
そして同時に、この任務を始めた時の直感が正しかったことを強く噛みしめざるを得なかった。




