第4話 復讐
「雪がちらついてやがる。
今年は早えぇって話だ。」
ヒュウガはストーブに薪をくべつつ、フローレンスに話しかけてきた。
「根掘り葉掘り聞くつもりはねぇが……お前ぇさん何者だい?
奴隷にしちゃ身なりは立派だったし、遺物について何か知っている様子だ。
少なくともそこいらの家で使われてた、とは思えねぇ。」
「それなら、私も聞きたい。
貴方こそ何者?」
フローレンスの言葉にゆっくりとヒュウガは振り向いた。
「レオンハルト・フォーゲルの名を聞いて、貴方は反応した。
それにその男の事も変に詳しい。」
フローレンスの視線は鋭く、冷たい。
「何故あの男が魔導闘法を使うと知っているの?
遺物の武器についても、何故知っているの?
狩人には過ぎた知識。何故?」
その言葉は静かで緩やかなものだった。
しかし、その底には明確な警戒感が押し込められている。
ヒュウガは無言で薪をもう一本くべ、おもむろに立ち上がった。
「ま、隠してもしゃあねぇな。
アイツぁ俺のダチだ。
しばらくぶりで会っちゃいねぇが、まあ、風の噂ってヤツだな。」
そのままベッドに座り、言葉を続ける。
「遺物についちゃ、アイツから色々話を聞いたのさ。
さすがに『巨人』なんてのは話聞かなかったが……。」
「嘘。」
フローレンスはヒュウガの言葉を遮って、鋭く言い放つ。
「遺物の巨人について、貴方は何か知っている。
私が話を出した時の表情で解る。」
ヒュウガは呆れとも、驚きとも取れる、曖昧な表情を見せ、ため息を一つついた。
「わかった! 確かに巨人ってヤツも話を聞いた!
だが、今はもうねぇ。
見つかったモンは破壊して封印したって言ってたよ。」
フローレンスは、無言でヒュウガの顔を見つめる。
表情は変わらないが、視線には敵意に近いものが見え隠れしている。
「巨人についちゃ、それ以上は知らねぇよ。
コイツぁどうにも遺跡工学でも禁忌なようでな。アイツもあまり詳しい話はしなかった。
そもそも部外者の俺にそんなこと聞いたって仕方ねぇだろうに。」
ヒュウガは呆れたような視線をフローレンスの顔へ注ぐ。
フローレンスはその視線を受けて、静かに目を閉じ、口を開いた。
「確かにそう。
ただ、今の私は少しでも情報が欲しい。」
「マウルの遺跡工学じゃダメなのかい?」
ヒュウガの問いに、今度はフローレンスが小さくため息をついた。
「遺跡の研究は帝国の側が十年は進んでいる。
帝国では一年近く前に何か内輪のもめ事があり、遺跡の巨人が使われた。
だとすれば、帝国には遺跡の巨人兵器を運用するノウハウがあると考えられる。
それを奪い取りたい。」
「随分ベラベラ喋るんだな。」
「私はもうマウルを捨てたつもり。
あの国に未練はない。」
「……に、しちゃ、仇を討とうとしている。
立ち戻るぜ? 仇ってのは誰だい?」
「王国の開戦派。
奴らに恐怖を刻みつけて殺したい。」