第7話 挑発
「予定通り。」
「ああ。残数十一人。
これで山小屋に引っ込んでくれりゃ、爆薬で木っ端微塵だ。」
『壊滅部隊』の朝の点呼の様子を、ヒュウガとフローレンスが窺っている。
双眼鏡で人数を把握し、昨夕の襲撃の効果も十分に成ったことを確認できた。
しかしそれでもヒュウガの頬は緩まない。
「多分、シヴァってヤツはコッチの気配に気づいている。
だから、ここから山小屋までは泳がせる形にする。」
「小屋を使わなかったら?」
フローレンスの疑問がまたもや飛んできた。
だが、この疑問は無理もない。ここまで追い込まれている連中が、小屋に仕掛けた罠に気付かないはずがない。
ヒュウガは表情を崩さずに答えた。
「他の連中が許さんさ。
野犬の遠吠えも近くなってるこの状況で、安心できない野営を進んで選ぶのは奴だけだろう。」
「爆薬の罠を見破られる可能性は?」
「ゼロじゃねぇな。
通常ならまず見つからねぇが、あのヤロウは別格だ。
起爆のための導火線はかなり注意して埋めといたが、ヤツに見つかる可能性は十分にある。」
「じゃあ……。」
「だが爆薬は、仕込めるだけ仕込んだ。
もし導火線が見つかったとしても、先手で火矢でも放てば、一発でドカンだ。」
ヒュウガの言葉を聞き、思案するフローレンス。
それを見たヒュウガは、その場から離れつつ、彼女に声をかける。
「妙な気を起こすなよ?」
「え?」
「山小屋の見張りはブランに任せる。
さすがにシヴァのヤロウでも、偶然遠くに居合わせた獣にまで気を回さんだろう。
奴らが入ったら、ブランに知らせてもらう。
それまでは家で待機だ。」
「了解した。」
ヒュウガは双眼鏡で、進軍を始めた『壊滅部隊』の連中を再び見張り始めた。
そこで気付いたことが一つある。
遠間から見る限り、シヴァは進軍にあまり協力的とは言えない。
罠を外すのに、かなりの手間をかけているのだ。
しかも時折、わざと派手に音を立てている節がある。
(ナルホドな……コッチを誘ってるか……。)
ヒュウガは頭の中で独り言ちた。
シヴァは恐らく、この罠を仕掛けた『狩人』と闘いたがっている。
森を舞台に、最高の殺し合いができると、そう踏んでいるのだろう。
「悪ぃが、乗れねぇな……。」
ヒュウガの口から、つい、言葉が漏れた。
フローレンスは一瞬眉根を寄せて、ヒュウガのその言葉を考える。
そんな彼女の様子を見たヒュウガは、苦笑いを見せながら言葉をかけた。
「独り言だ。忘れてくれ。
そろそろ戻るぞ。
あのヤロウ、もう完全にコッチに気付いている。」