第6話 迷信
「総員……八名……だと!?」
翌朝、点呼の結果を受けたゲシノクは、顔を真っ赤にして報告を聞いていた。
前日の夕方に起きた襲撃の結果、直接射殺された兵は三名。
算を乱し、未発見だった罠に引っかかって命を落とした兵が五名。
そしてヒュウガの目論見通り、半数以上が夜陰に乗じて逃げ出していたのだ。
シヴァはいかにもつまらなそうに、ゲシノクに向けて言った。
「ま、仕方ありませんわなぁ……。
今回は本来荷物持ちで楽勝の仕事のはずでしょう?
だが、こんな状況で命賭ける形になっちまった。
だとすれば、チョイとばかり見返りが少なすぎる。
上手く立ち回ってご褒美程度じゃ、やる気なんざなくなくなりまさぁな。」
ゲシノクはシヴァの顔を睨みつけ、ギリギリと歯を鳴らしている。
そこにグロスが静かに尋ねてきた。
「何人斬った?」
「あン?」
「何人斬ったのかと聞いてんだ。」
怒りを押し殺しているのだろう。グロスの声がかなり重く響く。
シヴァはさらに退屈そうにため息をついて答える。
「逃げ出したヤツを五人斬ったな。
どいつもこいつも根性なくていけねぇや。」
ヘラっと答えるシヴァの顔面に向けて、グロスの鉄拳が放たれた。
だが、シヴァはその拳を易々と刀の鞘で受け流す。
「随分と仲間思いだねぇ。隊長さん。」
「手前ぇの態度が気に食わねぇんだ!!
仲間斬っといて、その面たぁどういう了見だ!?」
グロスの怒声に、シヴァが呆れたような顔でかぶりを振る。
「俺ぁな、隊長さん。
一発で命落とすような斬り方で殺してやったんだよ。
わかるかい、この意味?」
グロスもゲシノクも怒りの中に困惑を見せつつ、シヴァの顔を睨んでいる。
「気づかねぇかい? 段々野犬の遠吠えが近くなってるのに。
血の匂いを嗅ぎづけて、腹減らした奴らが近寄ってきてんのさ。
俺に見つからなかった連中は、きっとどこかの罠に引っかかってるだろうよ。
その罠で死んだ奴らは運がいい。
だが、もし身動き取れない罠に引っかかったら?」
「生きたまま野犬の餌……か……。」
ボソリと言ったグロスの言葉を聞いたゲシノクは、過敏ともいえる勢いでその強面に目を向けた。
マウルでは、獣に喰われて死んだ命は、天国に行けないと言われている。
迷信深い人間ほど、その死に様に気を付けるものなのだ。
「そもそもな。」
シヴァが、面持ちをずっと真剣なものにして再び口を開いた。
「こんな誇りも忠誠心も何もない屑どもに、命張らせようってのが間違いなんだよ。
もう一度聞くぜ、大将。
行くか? 戻るか?」
もはや立場も何もない。シヴァも相当、腹に据えかねている。
グロスも苦々しい顔で、ゲシノクの表情を伺っていた。
「進軍だ……。」
「いや、待ってください長官!
この状況でその判断は……。」
「いや! 進軍だ!!
ただし方針を変える。
財宝については、ここにいる全員で山分けとする!!
これで文句あるまい? え!?」
ゲシノクの勢いに、注進したグロスが気圧された。
どうだ、と言わんばかりのひきつった笑いを見せ、シヴァの顔を再び睨みつけるゲシノク。
シヴァは再びつまらなそうに頭を掻き、小さく答えた。
「仰せのままに……。」