第4話 進軍
数ロークラムも進んだだろうか。
膝下よりも少ない程度とはいえ、雪の積もる森の中、進軍はかなりの負担になる。
まず道が解らない。
人が通りさえすればその痕跡から道を知ることもできるが、今回近隣の村々には戒厳令が敷かれている。人は通るはずがない。
まして森そのものもかなり奥の方となれば、余所者に安全な道が解る訳もない。
まだ幸いだったのはコンパスが生きていた事だろう。
部隊は何度となくコンパスで方向を修正し、よたよた歩きで斥候が難に遭ったポイントまで到着した。
「ここが問題の場所か……。」
シヴァの目が輝き、静かに周囲を歩き出した。
「おい! 何を……。」
ゲシノクがシヴァの行動を見とがめ、怒鳴りつけようとする。
だが、その言葉を最後まで聞くことなく、シヴァは静かに、だが強烈な迫力を持ってゲシノクに答えた。
「死にたくなきゃ、黙ってな。」
立木、大木、茂みの中……あらゆる個所をシヴァは調べる。
納得のいかない顔でため息を吐き、シヴァはゲシノクに言った。
「コイツぁマジでヤバいかもしれん。
諦めて戻った方がいいぜ。」
「な……何を……!?」
ゲシノクの顔面が真っ赤に燃えた。怒号に近い程の声が彼の口から迸り出る。
「何を言うかと思えば! なんだそのセリフは!!
今回の作戦に危険はつき物だ!
だからこそ、任務に貢献した者には褒美をやると言っているだろうが!」
「しかしこの先、かなりの罠が仕掛けられてますぜ?」
顔を真っ赤にしてがなり立てるゲシノクに対し、まるで顔色一つ変えず、冷徹なまでの表情を見せ続けるシヴァ。
「財宝を他に狙う奴がいることぐらい知っているだろう!
そいつが罠を張ることぐらい想定済みだ!!」
鼻息荒く、さらにまくしたてるゲシノク。
シヴァは静かに大木の中ほどを撫でた。
「ここにロープのこすれた跡がある。
角度を考えれば、獲物を宙吊りにするようなものだと考えられる。」
続いて周囲を見渡して、シヴァは続ける。
「あの崖の上からなら、この空間は丸見えだ。
弓や銃で狙い撃ちにできる。」
「う……ううぅ……!」
ゲシノクは何も言えず、うめき声を口の端から漏らし続けていた。
「長官殿。斥候部隊は、ここの罠で殺られた。
その中は結構大掛かりなものもあるらしい。
この先にはまだ手付かずの罠がゴロゴロしていると見ていいが、それでも進軍するのかね?」
部隊員に動揺が広がり始めた。
斥候が死んでいるということは伏せられての進軍だったのだろう。
抑えがたい焦りが、全ての兵の顔に浮かぶ。
「いかがいたします? 長官殿……。」
グロスが心配そうに進軍の続行について、実行か中止かの伺いを立てた。
「進軍だ! 誰が止めると言ったか!!
ただし罠の探索と解除は、シヴァ副隊長、貴様がやるんだ。」
「いいでしょう。」
ゲシノクの怒号に対し、シヴァは不敵な笑みを見せ答えた。
「本当の特務部隊員ってのをお見せしますよ。」




