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黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第8章 -破綻-
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第4話 進軍

 数ロークラムも進んだだろうか。


 膝下よりも少ない程度とはいえ、雪の積もる森の中、進軍はかなりの負担になる。


 まず道が解らない。


 人が通りさえすればその痕跡から道を知ることもできるが、今回近隣の村々には戒厳令が敷かれている。人は通るはずがない。


 まして森そのものもかなり奥の方となれば、余所者に安全な道が解る訳もない。


 まだ幸いだったのはコンパスが生きていた事だろう。


 部隊は何度となくコンパスで方向を修正し、よたよた歩きで斥候が難に遭ったポイントまで到着した。


「ここが問題の場所か……。」


 シヴァの目が輝き、静かに周囲を歩き出した。


「おい! 何を……。」


 ゲシノクがシヴァの行動を見とがめ、怒鳴りつけようとする。


 だが、その言葉を最後まで聞くことなく、シヴァは静かに、だが強烈な迫力を持ってゲシノクに答えた。


「死にたくなきゃ、黙ってな。」


 立木、大木、茂みの中……あらゆる個所をシヴァは調べる。


 納得のいかない顔でため息を吐き、シヴァはゲシノクに言った。


「コイツぁマジでヤバいかもしれん。

 諦めて戻った方がいいぜ。」


「な……何を……!?」


 ゲシノクの顔面が真っ赤に燃えた。怒号に近い程の声が彼の口から迸り出る。


「何を言うかと思えば! なんだそのセリフは!!

 今回の作戦に危険はつき物だ!

 だからこそ、任務に貢献した者には褒美をやると言っているだろうが!」


「しかしこの先、かなりの罠が仕掛けられてますぜ?」


 顔を真っ赤にしてがなり立てるゲシノクに対し、まるで顔色一つ変えず、冷徹なまでの表情を見せ続けるシヴァ。


「財宝を他に狙う奴がいることぐらい知っているだろう!

 そいつが罠を張ることぐらい想定済みだ!!」


 鼻息荒く、さらにまくしたてるゲシノク。


 シヴァは静かに大木の中ほどを撫でた。


「ここにロープのこすれた跡がある。

 角度を考えれば、獲物を宙吊りにするようなものだと考えられる。」


 続いて周囲を見渡して、シヴァは続ける。


「あの崖の上からなら、この空間は丸見えだ。

 弓や銃で狙い撃ちにできる。」


「う……ううぅ……!」


 ゲシノクは何も言えず、うめき声を口の端から漏らし続けていた。


「長官殿。斥候部隊は、ここの罠で殺られた。

 その中は結構大掛かりなものもあるらしい。

 この先にはまだ手付かずの罠がゴロゴロしていると見ていいが、それでも進軍するのかね?」


 部隊員に動揺が広がり始めた。


 斥候が死んでいるということは伏せられての進軍だったのだろう。


 抑えがたい焦りが、全ての兵の顔に浮かぶ。


「いかがいたします? 長官殿……。」


 グロスが心配そうに進軍の続行について、実行か中止かの伺いを立てた。


「進軍だ! 誰が止めると言ったか!!

 ただし罠の探索と解除は、シヴァ副隊長、貴様がやるんだ。」


「いいでしょう。」


 ゲシノクの怒号に対し、シヴァは不敵な笑みを見せ答えた。


「本当の特務部隊員ってのをお見せしますよ。」


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