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黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第8章 -破綻-
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第2話 訓示

「いいか、貴様ら!」


 静寂の森の中、ゲシノクの声がキンキンと響く。


「今回の任務は人を殺すなどと言った面倒な話ではない。

 財宝だ! シャーワイユの遺した財宝を奪いに行く!」


『財宝』という単語を耳にした『壊滅部隊』の男たちは、一気にざわめき始めた。


 その声を静めるために、グロスが怒鳴りつける。


 再び静寂が戻ったのを確認して、ゲシノクが改めて口を開いた。


「ここで、財宝の全てを私の懐に入れるのは容易い。

 しかし、だ。私にも慈悲の心という物があるのでな。

 今回の一件、任務遂行に対する貢献の度合いを見て、寸志ではあるが褒美をくれてやる。

 気合を入れて任務を果たすように。

 私からは以上だ。」


 再び男たちが色めき立つ。どれほどの物かは解らないが、褒美が出るというのだ。


 編入において、汚れ仕事しかないと聞いていた連中にとってはまるで夢のような話ではないか。


 今度のどよめきを押さえるのに、グロスは二度、怒鳴り声を張り上げる。


 それを横でニヤニヤと笑いながら見やるシヴァに、ゲシノクは苛ついていた。


(この男……剣術の腕は確かだ。

 あの『羅刹の黒狼』から私を救ったあの腕を手放すのは惜しい。

 だが、この態度を放っておくのは、どうあっても許しがたい。

 どこかで見せしめにせねばならん……。)


 グロスの三回目の怒鳴り声を聞き、ようやく男たちのどよめきが収まった。


 静粛を確認したグロスは再び全員に向け叫ぶ。


「出発はこれより一時間後とする!

 それまでに準備を済ませておけ!

 以上、散開!」


 グロスの号令を聞いた男たちは、気合の入った顔でめいめいの荷物へと向かう。


 全員が張り切っている様子を見たゲシノクは、それを鼻で笑って自身の天幕へと足を向けた。


 グロスは小さくため息を吐くと、不思議と顔をしかめているシヴァに話しかけた。


「どうしたい?

 なんか気になることでもあるのかい?


「いや、さっきの長官殿の表情が気になったのさ。」


「表情?」


 訝しげにグロスはシヴァに尋ねる。


「奴は今、この連中がやる気を出している様を見て、鼻で笑っていた。

 コイツぁ気にしといた方がいいぜ?」


 シヴァは先ほどとは異なるほどの真剣さでグロスに忠告してきた。


「気にしすぎだろ?

 あの長官殿の表情に一々目くじら立ててたら疲れるだけだって、お前ぇさんも知ってるだろうが。」


「だといいがな。

 だが、どうも俺の勘が言うのさ。

『褒美なんざ出やしねぇ。どこかで皆殺しにするつもりだ』ってな。」


「マジかよ……。」


 真剣な表情を崩す事のないシヴァの言葉に、グロスは言葉を忘れたかのようにつぶやいた。


「ま、そうなったら仕方ねぇ。

 手前ぇの身は手前ぇで守るしかねぇわな。

 死んじまったらそこまで、だな。」


 シヴァは皮肉たっぷりの笑みを見せ、そのまま自分の荷物を取りに向かう。


 残されたグロスのその目は、知らぬうちにも恐る恐る天幕へと向かっていた。


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