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黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第7章 -斥候-
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第5話 策謀

「いいのでしょうか? 副長官殿。」


 伝令として事の仔細を聞いた少年兵が、恐る恐る副長官に尋ねてきた。


「良くも悪くもない。この件であの長官殿は『詰み』だ。」


「どういうことでしょう?」


 ますます恐れを深める少年兵に、副長官は静かに言葉をかけてきた。


「あの男は、なにか個人的な案件で『壊滅部隊』を動かそうとしている。

 これは国王陛下の存ずる件ではないからな。これだけで叛逆罪を問える一件だ。

 そしてたった今、自分はあの男に『現場を私に一任する』旨を了承させた。

 こちらは陛下の勅命にあの男が背く形になる。

 この一件が陛下の耳に入れば、またそれだけでも面白い結果になるだろう。」


 副長官の冷徹な視線を目の当たりにした少年兵は、ぞっと背筋を震わせた。


「後は、『金貨』だな。」


「『金貨』ですか?」


 すっ……と瞳を閉じた副長官へ、少年兵がオウム返しで尋ねる。


「今あの男に殺された兵が持ち帰ったという金貨、あれは間違いなくあの男を引きずり出す餌だ。」


「どういうことでしょう? 意図が読めません……。」


 薄く開いた瞳で遠くを見つめ、ボソリと言葉を続ける副長官に、少年兵が不思議そうに声をかけた。


「金貨を一枚、メッセンジャーに渡す……。

 もし、財宝の在処を隠し通すなら、皆殺しにしてメッセンジャーなど立てる必要はない。

 だったら、『なぜ金貨を利用したか?』になる。

 理由は一つ。『ここに財宝があるぞ。』という証し立てだ。

 その証し立てをメッセンジャーに渡し、あの男に叩きつけた。

 だとしたら狙いは『別の人間が財宝を横取りしている』と思わせるため。

 これ以外ないだろう。」


 静かに推論を口にする副長官の顔を、じっと見詰める少年兵。


 副長官の言葉が途切れたタイミングを見計らい、少年兵は改めて質問した。


「その推理、長官殿にはお知らせしないんですか?

 そうすれば、余計な厄介事が減る気がしますが……。」


「君は、今この状況こそ、厄介事を排除できる流れだと思わないのかね?」


「え?」


「通常、諜報部の長官たる者、この程度の罠はあっさり見抜けるようなな人間でなければならない。

 最早それも叶わぬようなら、ご退場を願うしかないだろう。」


「ご退場……というと……?」


「死ぬか、殺されるか……まあ、穏当なのは投獄で生殺しか。

 正直に言って、この罠を仕掛けた帝国の人間に、自分は感謝しているよ。

 あの無能を頼んでもいないのに始末してくれるんだからな。」


 それだけ言うと、副長官は喉の奥でくっくっと笑い始める。


 少年兵もここにきて、ようやくこの副長官の腹の底にある鬱憤が、かなりのものであると気が付いた。


 副長官が笑いを止め、静かに立ち上がるのに合わせて、少年兵もそっと席を立つ。


 地下室への扉が閉まっていることを確認し、二人はゆっくりと部屋を後にした。


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