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黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第7章 -斥候-
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第2話 狩人

「おい。」


 狩人らしき装いの男が、生き延びた男を乱暴に茂みから引きずり出して、ぶっきらぼうに声をかけた。


「手前ぇ、マウルか?」


 変に訛りのある言葉で、狩人は男に聞く。


 男は、恐怖と怒りを交えた視線をもって狩人を睨みつけている。


 そんな男に向け、狩人は手にした弩弓を撃ち放った。

 放たれた矢は、男の耳を削いで地面へと突き刺さる。


「ぎ……っ!」


 悲鳴を押し殺す男に向け、狩人はまた、訛り気味の言葉を投げかける。


「ま、どこでもいいやな。

 けどな、財宝はオイラがいただくぜ?

 上役にはそう言っとけ。」


 狩人はそれだけ言うと、金貨一枚を男の前へと弾いてよこした。


「コイツぁ駄賃だ。

 くれてやるから、いま言ったコト伝えとけや。」


 呆然と金貨を見つめる男の目の前に、また一本の矢が突き刺さる。


「とっとと去ね。

 別にオイラぁ、お前ぇも殺していいんだが?」


 その言葉を聞いた男は金貨を引っ掴むと、大急ぎでその場から逃げ出していった。


 森の道をマウルへ向かって走り去る男。


 その影が十分に見えなくなったところで、ショールを羽織ったフローレンスが、狩人の脇まで歩み寄ってきた。


「どうかしら?」


 顔を覆うマフラーを口まで引き下げて、ヒュウガが彼女の言葉に答えた。


「どうだろうな。

 上手くしたら次でヤロウがお出ましかもしれんぞ?」


「どうして?」


「あの金貨がどう捉えられるか、だ。

 ゲシノクのヤロウがあの金貨を『挑発だ』と見抜く程度に利口なら、失敗する。

 だがもし、『警告だ』と捉える間抜けなら、浮足立って行動を始めるだろう。」


 ヒュウガは蛮刀で蔓を斬り、宙づりの男を地面に下ろした。

 トラ挟みも死体の足から外し、その二人を茂みから担ぎ出す。


「放っておけばいい。

 確かこの連中は強姦殺人を犯した四人組。」


「そんなワケにゃいかねぇよ。放っときゃ獣が喰いに来る。

 野犬、狼、冬籠りし損ねた熊……どいつが来てもヤベぇ。

 だから弔ってやるのさ。地獄谷にな。」


「地獄谷?」


 フローレンスは、黙々と死体をロープを結わえるヒュウガへと、言葉短く尋ねた。

 ヒュウガは愛用の背負子に死体三体を縛り付けて背負う。


 彼は、足元がしっかりしているか確認するように、数歩強く足を踏みしめて進んだところで、フローレンスの問いに答えた。


「地獄谷ってのは、この近くにある断崖だ。

 谷底には猛毒のガスが出る裂け目が無数にあってな。

 そのため、獣どころか鳥さえも近寄らねぇのさ。

 そこに死体を放り込めば獣に喰われることもなく、ミイラか白骨になってくれる。

 人の目にも触れねぇし、一石三鳥ぐらいのメリットがある。」


「成程。理解できた。」


 フローレンスはブランに付き添われるような形でヒュウガの後を追っていたが、村への分かれ道についたところでヒュウガが彼女に警告する。


「ここからはまだ罠が残ってる。お前ぇさんは家で待機だ。

 いいな?」


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