第4話 仕掛け
「罠の配置、進捗は約半分です。」
テオが汗を拭き拭き報告する。
そんな彼に水を入れたカップを差し出し、ヒュウガが尋ねた。
「今までで、いくつ配置できた?」
「十九です。全体で四十から五十は仕掛けようと考えていますから。」
考え始めたヒュウガに、エルマーがそっと地図を差し出した。
「現在の配置はこうなっています。
現在は主要の道筋に沿って、最大の効果を持つ大掛かりな罠を配置しています。
ゴール付近の狩人小屋には何か仕掛けますか?」
差し出された地図を見ながらヒュウガは二人に指示を出す。
「ソイツぁ俺が直接仕掛ける。
お前ぇさんたちには道中の罠を仕上げて欲しい。
明日、明後日中にいけるか?」
「数を絞れば何とか。
ただ、そうなりますと、大規模な罠はもう作れませんね……。」
考え込むテオを見ながら、ヒュウガがさらに答えた。
「それはやむを得ん。
そろそろ見切りを付けんと連中を迎え撃つ準備ができん。
そもそも、今回の罠の目的は直接殺す事じゃない。
連中を浮足立たせ、冷静な判断を難しくさせるのが最大の狙いだ。
だから、大掛かりなのはここまででもいい。
ここからは、小規模でも相手の意表を突く手合いが欲しい所だな。」
「了解しました。では、その方向に絞ります。」
テオはそう答えると、持ち帰った野生の蔓を丹念に調べ始めた。
握り、引っ張り、扱く……。
その一連の動作を見ていたフローレンスが、不思議そうに尋ねてきた。
「ロープならこの家にも大量にある。
何故野生の蔓を利用するの?」
そんな声を受けて、テオは律義にも手を止めて丁寧な言葉を返す。
「若い蔓は下手なロープよりも強度が高いんです。
加えてカモフラージュ効果も期待できます。
これで罠を作れば、素人の目に留まることは万に一つもなくなりますよ。」
「基本的に連中は特殊訓練を受けたわけじゃないゴロツキ共。
多分そこまで用心する必要はないと思う。」
「自分はどうにも凝り性なんでしょうね。
そういった所に手を抜きたくないんです。」
フローレンスとテオの会話を横で聞きながら、ヒュウガはエルマーの報告にてきぱきと指示を返す。
クリストフが鎧をケースにしまっていると、窓の外で雪がちらつき始めているのに気が付いた。
「隊長。また降り出しましたよ……。」
「連中が用意してこちらに到着するまで、あと一週間はないはずだ。
雪で罠が隠れてくれれば儲けモノなんだがな……。」
ヒュウガはそう言って、印の付けられた地図を見返す。
罠は明後日には十分な数が整うだろう。
弩弓、蛮刀、投げナイフは準備良し。
後は小屋へ仕掛ける発破か……。
もう一度、狩人小屋を建てる手間を考え、ヒュウガは少し眉を曇らせた。
春先一番の労働は、これで決まりだろう。




