第1話 再会
「ご無沙汰しております、隊長!」
明々と燃える暖炉を前にして、二人の兵士が満面の笑みで敬礼の姿勢を見せている。
一人は小兵のエルマー・リンク。
もう一人は大男のテオ・ゲーデル。
二人もまた、ヒュウガの元部下。
即ち、影の兵士隊の精鋭だ。
そんな二人の目はどことなく潤んでいる。
彼らもやはり、クリストフと同じくヒュウガを敬愛しているのは間違いない。
そんな彼らに人懐っこい笑顔を見せながら、ヒュウガは語りかけた。
「二人ともすまなかったな。
少しばかり一人になりたかったんで、連絡を絶っていた。」
脇ではクリストフが、やはり目を潤ませながら笑顔を見せている。
そんな場をざっと見まわして、ヒュウガが再び口を開いた。
「今回お前たちに声をかけたのは、ここにいる女間者の仇討ちを手伝ってもらいたいからだ。
経緯は追々話すが、この作戦が目論見通り成功した場合、マウルの諜報組織に何らかのダメージを与えうると俺は確信している。」
「申し訳ありません、隊長。
まず、そちらの女性が何者なのかを教えて頂けなければ、作戦の重要性も把握できません。」
ヒュウガの言葉が途切れたのを見計らい、エルマーが口を開く。
元諜報部の彼は、この手の『伏せられた情報』に敏感だ。
ヒュウガが苦笑いと共に彼女を紹介しようとしたところ、フローレンスが先に口を開いた。
「シャーワイユの『妖』。これでは説明にならないか?」
「なんだと!?」
エルマーの顔から、さっ……と血の気が引いた。
テオの額にも脂汗が浮かぶ。
「ま……まさか、あの正体不明の間者が……貴様なのか?」
エルマーの声がわずかに震えている。
恐怖なのか、それとも興奮なのか、その表情はどちらとも取れる。
そんな彼からの射抜くような視線を受けながらも、フローレンスはいつも通りの冷静さで言葉を返す。
「その通りだ。」
「帝国の使者、間者を次々に暗殺した謎の女間諜……。
それがこんなにうら若い女性だったとは……。」
呆然とするテオを見て、ヒュウガが顔を引き締める。
「彼女自身が説明した通りだ。
彼女はシャーワイユの懐刀。
そしてシャーワイユ侯爵はこの間政敵に粛清された。
そうなると、彼女の仇の対象は?
エルマー、答えてみな?」
「マウルの勢力……ということになりますね……。」
「ご名答、だ。」
ヒュウガはニヤリと笑い、言葉を続けた。
「彼女の討とうとする仇は、マウルの現諜報部長官、ゲシノク・バートランド。
ヤツには俺も貸しがあるんでな。手助けする形になった。」
そんなヒュウガの言葉を補うようにクリストフが口を開く。
「二人とも解っているだろう? 隊長は決して他人を裏切らない人だ。
もし『影の兵士隊』を罠にはめるつもりなら、俺たち三人をわざわざ選ぶ必要なんかない。
もっと大規模にやって全滅させればいいだけだ。
それに、作戦自体は隊長とそちらのフローレンス女史、それにそこにいるブランというユキヒョウの二人と一匹で行なうと言っている。」
エルマーとテオは、背後の寝床で丸まって寝ているブランを一瞥して、顔を見合わせた。
ややあって、テオが不満そうな声を出す。
「自分たちでは荷が重い、と判断されているのでしょうか?」
「違ぇよ。」
ヒュウガがボソリと答える。
「今回はやりあう連中を遭難するまで引き回す。
それにつきあうんだ。身軽でなきゃ危ない橋になる。
もし、お前ぇたちまで巻き添えにしちゃ、お天道様に申し訳が立たんからな。」