表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第5章-冬-
32/63

第3話 シュタインバッハ中将

「よく私だと解ったな?」


 禿頭の男――『影の兵士隊(シャッテンクリーガー)』長官、グリムワルド・シュタインバッハ中将は、静かにヒュウガへと語りかけた。


「人を人とも思わねぇロウのヤロウが、他人に頭を下げるなんざ普通は考えられねぇからな。

 しかも反射的にやっていたとなりゃ、相当の上役……つまりアンタしかいないってことになる。」


 スラリと答えるヒュウガに対して、苦虫を噛み潰したかの表情を見せるロウ。


 その横でグリムワルドは苦笑いを見せている。


「しかし辞めたとたんにオッサン呼ばわりとはな。

 大した鼻っ柱だ。」


「生憎、コッチの生業に身分なんざ関係ねぇ。

 皇帝陛下にしたって、便宜上『陛下』と呼んじゃいるが、見限った時はボロクソに言わせてもらうぜ。」


「貴様……!」


 隊員の一人が気色ばみ、剣へと手をかけた。


 ヒュウガは敵意を秘めた視線を、そちらへと向ける。


 剣に手をかけ今にも抜刀しかねない、一触即発の空気が漂った。


 そんな張り詰めた空気を、グリムワルドの大笑が破りさる。


「私は、お前のそう言う鼻っ柱が気に入っていたのだがな?

 だが、まあお前の言う通りではある。

 中尉の作戦を聞いた場合、陛下の眉も曇るだろう。」


「しかし長官……!」


 ロウの口から何か抗議の言葉が出ようとしたところと、グリムワルドが遮った。


「ヒュウガ。お前はどうしたいのだ?

 この件、本来はお前の物だぞ?」


 グリムワルドの言葉を聞き、ヒュウガはニヤリと笑い、答え始める。


「まず一点は、この件を俺たち二人に任せるということだ。

 多少の手伝いを借りられるならありがたいが、部隊を率いるのは勘弁だな。」


 グリムワルドの目を見つめ、ヒュウガが言った。

 続いて、その目はロウの顔へと向かう。


「もう一つは森の中のみでケリをつけるという事。

 冬の森なら何かと融通が利く。村まで巻き込む必要なんざねぇよ。」


 ロウがヒュウガの顔を睨みつける。

 ヒュウガはそんな顔を一瞥し、再びグリムワルドへと向き直った。


「最後に……このフローレンスの亡命を認めてやってくれ。

 コイツはもう、マウルを捨て、この最後の一件をもって命を捨てる腹でいる。

 ムダに命を捨てるぐらいなら、まだ何か可能性ってのを見せてやりてぇんだよ。」


 静かに語るヒュウガに、グリムワルドがスッと尋ねた。


「惚れたのか?」


「そうじゃねぇとは言わねぇが……。

 助けたヤツに目の前で死なれちゃ、寝覚めが悪すぎらぁな。」


「ふむ……。」


 ひとしきり話し終えたヒュウガの言葉を聞き終えると、グリムワルドは顎に手を当てて考え始めた。


 その横からロウが言葉を挟んでくる。


「長官。こんな虫の良い話を聞き入れる必要などありません。

 自分の目算による計画をもってすれば、マウルの諜報に大打撃を与えられます。」


 憤慨するロウに向けて、ヒュウガが口を開いた。


「賭けをしねぇか?」


「賭けだと?」


本気マジモンの真剣勝負。タイマンである以外、何を使っても良し。

 んで、勝った方の話が通る。

 シンプルだろ?」


「面白い。」


 ロウが腰の左右に佩いたショートソードに手をかけた。


「いつから始める?」


「いつでもいいぜ? 来な。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ