第1話 来訪者
収穫祭の片づけはあっという間に終わった。
簡易食堂になっていた天幕も、村娘たちが美貌を競い合った舞台もなくなり、出し物で祭りに色を添えていた旅芸人たちも、また何処かへと旅立っていく。
そんな中、村に五人の余所者がやってきた。
皆が皆、軍服に身を包み、馬上から鋭い視線を周囲に投げかけている。
その五人のうち、一人は収穫祭にもやってきたクリストフ。そして残る四人のうち一人は、深くフードを被り、顔もよく見えない。
「本当にここの村なんだな?」
口ひげを蓄え、髪を後ろに撫でつけた鷲鼻の男――チャン・ツェン・ロウが、クリストフへと尊大に話しかける。
「その通りです。ロウ中尉。
隊長……いえ、アマギ氏の自宅はもっと森の近くですが。」
「案内したまえ。『妖』がいるならば顔を拝みたい。」
鷲鼻の男の言葉を受け、クリストフは手綱をはたいた。
馬はゆっくりと森に向かって農道を進み、徐々に木々が深くなっていく。
さらに進んだところで、大きく野の開けた場所に出た。
その一角に、深い森を背にした丸木小屋が佇んでいる。
「あれか?」
「はい。」
言葉短かなやり取りの後、クリストフは馬を降り、小屋へと近寄る。
小屋の向こうでは野原でユキヒョウと戯れている子供たちの姿があった。
井戸で水をくむ女、薪を割る狼の獣人。
フローレンスとヒュウガだ。
二人は近づいてくるクリストフに気付き、その向こうにいる四人の男たちにも目を向けた。
ヒュウガが指笛を拭くと、ブランがこちらへ駆け寄ってきた。
フローレンスは子供たちに飴を配り、今日はもう終わりだと告げている。
「話は通しました。
ただ、確認したいと中尉が仰ったので……。」
「だろうな。」
馬を降りつつ語りかけるクリストフの言葉にヒュウガが答える。
そんな彼の足元へ、ブランがゆっくりやってきた。
獲物を狙っている獣の目で、ロウたち四人を睨みつけている。
同時に、何を思ったかフローレンスが家に入っていった。
彼らの前まで、馬上の四人が近寄ってくる。
「久しぶりだな、アマギ。」
「お前ぇさんも達者で何よりだ。」
馬から降りることなく挨拶の言葉を投げかけるロウ。
ヒュウガはそんな相手に対し、薄ら笑いで答える。
後ろに控える三人は、ゆっくりと馬から降り、辺りを警戒し始めた。
ロウが再び口を開く。
「『妖』を捕えたそうだな?」
「語弊があるな……。
亡命しようとしてたところを保護したのさ。」
「言い様だな……。」
ロウは馬上からヒュウガを見下して言う。
そんな二人に、クリストフが割って入った。
「中尉、せめて馬から降りられては……。」
「ああ、済まん。
どうも民間人相手では礼を忘れやすくてな。」
嫌味っぽく鼻先で笑うと、ロウはさっと馬から降りた。
そうして立ち並んでみると、身長一八五クランのヒュウガを上背で超えているのが解る。
身長は二〇〇クランを越えているだろう。
瘦身ではあるが、迫力のある体型だ。
「さて……問題の『妖』だが……彼奴は今どこにいる?」
「ここにいる。」
丸木小屋の玄関を開け、フローレンスがポーチに姿を見せた。
手に、婦人用の短剣を携えて。




