第10話 協力者
今年の収穫祭は盛況だった。
麦の出来は小麦、大麦共によく、ジャガイモもなかなかの豊作。
当然あちこちで並べられる料理やビールも出来の良い物が並び、皆が舌鼓を打っていた。
「おーい、ラガーもう一杯!」
そんな中、ヒュウガもまた新しく作られたソーセージを肴に、新酒のラガーを流し込んでいる。
「あれから随分経つのに、動きがないのはどういう事?」
フローレンスが不満そうに言う。
彼女が感情を見せ始めるのは、かなりその気が昂ってきているという証拠だと、ヒュウガも薄々気づき始めていた。
つまりこれは、フローレンスの苛立ちが相当なものであることを意味している。
ヒュウガは村娘が運んできたラガーを一気に飲み干すと、満足そうなひと息を吐き、フローレンスに向き直った。
「あの件について最大の問題があるってことに気付いてるか?」
「情報を流すルートがまるで確立していない事。」
「その通りだ。
だからそれには協力者が必要になる。」
「それは?」
「今日辺り来るんじゃねぇかな?」
そう言うと、ヒュウガはテーブルに並んでいる牛肉のステーキを適度に切り分け、かぶりついた。
ふと、フローレンスの背後に人の気配が近づいてきた。
同時にその人影は若い男性の声でヒュウガに声をかけてくる。
「隊長! ひどいじゃないですか!!
二年間も音沙汰なしなんて……。」
「久しぶりだな、クリス。
まあ、座ってビールでも飲め。」
ヒュウガは心底嬉しそうな顔を見せ、クリスと呼んだ青年にビールを勧めた。
クリストフ・マイヤー――かつてヒュウガが所属していた『影の兵士隊』。その十五番隊副隊長だった青年だ。
「まあ、こんな場ですから頂きはしますが……。
それはそうと、こちらの女性は?」
「シャーワイユの『妖』といえば通じるか?」
「なっ……!?」
フローレンスの冷たい視線とゾッとする声音を浴びせられたクリストフは、全身から警戒の色を発して佩いていた剣に手をかける。
ヒュウガはその様子を見て、くっくっと喉の奥で笑った。
「警戒しなくても大丈夫だ。
目の前に俺がいるだろうが。」
「は、はぁ、まあそうですが……。」
どことなく釈然としない様子で席に着くクリストフ。
そこへ村娘がオーダーを取りに来た。
その村娘の頬がどことなく赤らんでいるのは、クリストフの容貌ゆえだろう。
「しかし、自分を呼び出すということは、何か企んでいるということですね?」
エールと一緒に肉料理を二品ほど頼んだクリストフが、ヒュウガに顔を向けて語りかけてきた。
だがその目は、上品にジョッキを口に運んでいるフローレンスへと時折向けられている。
そんな様子を見たヒュウガは、クリストフに言った。
「細かいことは後で教える。
まずは飲め! 今年のビールは出来がいいぞ?」