第9話 財宝
「で、隠し財産は、本当にあるんだな?」
ヒュウガは今まで以上に真剣な顔でフローレンスに尋ねた。
フローレンスもまた、無表情の中に真剣さを隠し持って答える。
「ある。隠し場所は……。」
「いや、そこまで言う必要はねぇ。
お宝に興味なんぞねぇからな。」
フローレンスがわずかに驚いた色を見せた。
彼女はそのまま出てきた疑問を、ヒュウガへとぶつける。
「財宝としてもかなりの額になる。
帝国の銀貨換算でも五万枚以上は間違いない。
それに興味がないというのは俄かに信じがたい。」
「金はあるべきところに必要なだけあればいい。
だとすりゃ、俺のところには程々あればいいってこった。
ま、全部終わったら少しばかりくすねさせてもらうかもしれねぇがな。」
ヒュウガは頬杖をついて横を向いたまま、ニヤリと笑う。
直後、ヒュウガは居住まいを正して、フローレンスに向き合った。
「さて、俺の考えなんだが……。
最後にもうちょいと聞かせてもらうぜ。
そのゲシノクってヤロウは、金遣いは荒いのか?」
「身の丈に合わない散財を繰り返す餓鬼のような存在。
一介の兵卒だったころから借金で首が回らなくなっていたと聞く。
しかし、ここ一番の鼻の利きは鋭く、その時々の権力者に上手く取り入り、自身の立場を上へと引き上げた経緯がある。」
「ヤツのオツムの程度はどうだい?」
「周囲への付け届けに腐心するだけの能無し。
皮肉や冗談ですら、言葉の額面通りにしか受け取ることができず、人心の機微にはまるで無頓着。
諜報の何たるかが解っていないにも関わらず役職についていたため、侯爵は指示の出し方に常日頃から苦心していた程。
奴はただ他人を踏みつけにして自らの優位を誇示するが為だけに、諜報部長官という立場を欲したに過ぎない。」
無表情なフローレンスの口から、ゲシノクがどんな人間が語られる。
ヒュウガはそんなフローレンスの言葉を聞くと、我が意を得たりと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「イケるな……思ったより早くケリがつくかもしれん。」
「どういう事?」
「その隠し財産の噂を、マウルの諜報部員に流してやるのさ。
在処はここ、ブルメンスの森の奥ってな具合にな。
散々に金をばら撒かにゃ諜報部の長官になれない程度のヤツだ。地位を固めるためにもまだまだ金は要る。
だからこそ、侯爵の屋敷を襲撃してまでも金が欲しかった。」
ヒュウガは冷めたコーヒーを一口啜り、更に言葉を続ける。
「そこで公爵の隠し財産よ。
喉から手が出るほど欲しい財宝が見つかったとなりゃ、喜んで飛び出してくるぜ?
そこが狙い目さ。ノコノコ出張ってきたところを料理する。どうだ?」
ヒュウガの不敵な笑みに向け、フローレンスは再び生まれた疑問をぶつけてくる。
「村民に被害が出るかもしれない。それはどうするの?」
「そこは連中の部隊規模による。
その『壊滅部隊』は何人ほどいるんだ?」
「三十人いるかいないか。
入れ替わりが激しい連中だから、正確な数ははっきりしない。」
「ふ……ン。」
顎に手を当て、ヒュウガは考え始めた。
フローレンスは静かにその様子を見守っている。
ややあってヒュウガが再び口を開いた。
「もう二、三人協力者が欲しいな。
後は冬の森をどこまで利用できるか、だ。
今年は雪が多いと見た。そこに乗じてこの冬のウチにケリをつける。
それがダメなら……。」
「駄目なら?」
「そん時ゃマウルまでご一緒するぜ?
巨人なんかより、ずっとお値打ち品の羅刹一匹だ。」
それだけ言うと、ヒュウガは口角をニヤリと上げた。
その目に鋭い光を宿しながら。