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黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第4章 -収穫祭-
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第7話 軛

 ヒュウガの言葉を聞いたゴウが、再び緩やかに切り出した。


「まあ、この娘さんの処遇はお前さんに任せるとして、だ。

 お前さん自身の件、どうケリを付ける?」


 コーヒーを啜りながら語る獅子に向け、ヒュウガもまた静かに言葉を紡ぐ。


「正直、何言われても仕方ないと思ってるぜ。

 最悪、破門を言い渡されてもおかしくない事をしでかしてる。

 だがそうなったとしても、この能力ちからを捨てる気はねぇ。

 こんなご時世だ。誰かのために戦う能力はねぇと、流される血と涙は減らせねぇからな。」


 言い終わるのとほぼ同時に、ヒュウガの視線がゴウに向けられた。


 強烈な意思を秘めた強い視線。


 ゴウはそれにたじろぐことなく、再びヒュウガに声をかけた。


「訳アリだな?

 お前さんが自らの罪をしょい込む時は、何か理由がある。」


「そんなもん……。」


「嘘吐けぇ……。

 人質か何かあったんじゃねぇか?」


 ゴウが、挑むような目つきでヒュウガの顔を見据える。


 ヒュウガは小さくため息をつくと、シャツの首をはだけ、鎖骨の交わる辺りを露出させた。


 そこには小指の先ほどの大きさをした機械が、定期的に緑の光を瞬かせている。


「何を埋め込まれた?」


 ゴウの目に真剣さが戻り、言葉短かにヒュウガへと問いかける。


「人工心臓さ。

 心臓を銃で撃たれて、瀕死の所を特務部隊の医者に拾われた。

 ただ、治してもらったはいいが、調整が不完全だったんでな。

 定期的に診てもらう代わりの汚れ仕事だった。」


「全く……末世だねぇ……。

 そんなモンで人を縛るかよ……。」


 弱々しくかぶりを振るゴウ。


 フローレンスもどことなく困惑の色を見せ、その機械に見入っている。


 ヒュウガは首元のボタンを嵌めて言った。


「前までは気功術を使うたび、コイツが悲鳴を上げていたが、今はある人の善意で機能を完全に調整してもらえた。

 もう満足に『気』を扱えないような状態じゃねぇ。だからこそ、この能力は活かし続けたい。

 ま、そう言うわけだ。あとは煮るなり焼くなり好きにしてくれよ、オヤジ。」


 目を閉じてゴウが沈黙する。


 数秒の後、再びその口が開かれ、ヒュウガへと尋ねてきた。


「何人殺した?」


「爆薬使ってたからな……基地一ヶ所につき、まず二十人は下らねぇ。

 それを六ヶ所だから、ざっと百人はいってるはずだ。」


「直接の殺しは?」


「それは数えてる。全部で二十八人。最悪の外道共だ。」


「そうか……なら、何も言わん。」


「おい!?」


 ゴウの言葉に身を乗り出して、ヒュウガは抗議しようとする。

 それを押し止めてゴウがさらに言葉を続けた。


「お前のやったことは軍事作戦かもしれんが、テロであることは間違いない。

 そこは非難せざるを得ん。

 だが、直接手を下した連中……ま、お前が外道と呼ぶような連中だ。相当な非道をやってきた連中なんだろうよ。

 其奴らの罪を裁くため奮った拳だ。儂はその拳に込めたお前の正義を信じよう。」


「甘いぜ、アンタ……。」


「そうかもな。」


 渋面を作るヒュウガに向け、優しく微笑むゴウ。


 フローレンスはそんな二人の様子を見て、不思議な安堵を感じていた。


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