第7話 軛
ヒュウガの言葉を聞いたゴウが、再び緩やかに切り出した。
「まあ、この娘さんの処遇はお前さんに任せるとして、だ。
お前さん自身の件、どうケリを付ける?」
コーヒーを啜りながら語る獅子に向け、ヒュウガもまた静かに言葉を紡ぐ。
「正直、何言われても仕方ないと思ってるぜ。
最悪、破門を言い渡されてもおかしくない事をしでかしてる。
だがそうなったとしても、この能力を捨てる気はねぇ。
こんなご時世だ。誰かのために戦う能力はねぇと、流される血と涙は減らせねぇからな。」
言い終わるのとほぼ同時に、ヒュウガの視線がゴウに向けられた。
強烈な意思を秘めた強い視線。
ゴウはそれにたじろぐことなく、再びヒュウガに声をかけた。
「訳アリだな?
お前さんが自らの罪をしょい込む時は、何か理由がある。」
「そんなもん……。」
「嘘吐けぇ……。
人質か何かあったんじゃねぇか?」
ゴウが、挑むような目つきでヒュウガの顔を見据える。
ヒュウガは小さくため息をつくと、シャツの首をはだけ、鎖骨の交わる辺りを露出させた。
そこには小指の先ほどの大きさをした機械が、定期的に緑の光を瞬かせている。
「何を埋め込まれた?」
ゴウの目に真剣さが戻り、言葉短かにヒュウガへと問いかける。
「人工心臓さ。
心臓を銃で撃たれて、瀕死の所を特務部隊の医者に拾われた。
ただ、治してもらったはいいが、調整が不完全だったんでな。
定期的に診てもらう代わりの汚れ仕事だった。」
「全く……末世だねぇ……。
そんなモンで人を縛るかよ……。」
弱々しくかぶりを振るゴウ。
フローレンスもどことなく困惑の色を見せ、その機械に見入っている。
ヒュウガは首元のボタンを嵌めて言った。
「前までは気功術を使うたび、コイツが悲鳴を上げていたが、今はある人の善意で機能を完全に調整してもらえた。
もう満足に『気』を扱えないような状態じゃねぇ。だからこそ、この能力は活かし続けたい。
ま、そう言うわけだ。あとは煮るなり焼くなり好きにしてくれよ、オヤジ。」
目を閉じてゴウが沈黙する。
数秒の後、再びその口が開かれ、ヒュウガへと尋ねてきた。
「何人殺した?」
「爆薬使ってたからな……基地一ヶ所につき、まず二十人は下らねぇ。
それを六ヶ所だから、ざっと百人はいってるはずだ。」
「直接の殺しは?」
「それは数えてる。全部で二十八人。最悪の外道共だ。」
「そうか……なら、何も言わん。」
「おい!?」
ゴウの言葉に身を乗り出して、ヒュウガは抗議しようとする。
それを押し止めてゴウがさらに言葉を続けた。
「お前のやったことは軍事作戦かもしれんが、テロであることは間違いない。
そこは非難せざるを得ん。
だが、直接手を下した連中……ま、お前が外道と呼ぶような連中だ。相当な非道をやってきた連中なんだろうよ。
其奴らの罪を裁くため奮った拳だ。儂はその拳に込めたお前の正義を信じよう。」
「甘いぜ、アンタ……。」
「そうかもな。」
渋面を作るヒュウガに向け、優しく微笑むゴウ。
フローレンスはそんな二人の様子を見て、不思議な安堵を感じていた。




