第6話 毒蛇
集会所の奥にあるテーブルに着いたヒュウガとゴウの前に、フローレンスが淹れたコーヒーが置かれた。
ゴウはニコニコ顔で礼を言い、コーヒーに口を付ける。
そんな彼に向け、ヒュウガが呆れた顔を見せたまま口を開いた。
「で、なんの用だい?
風来坊のアンタがここにやってきたのは偶然とは思えねぇんだがな。」
そんなヒュウガの言葉を聞いたゴウは、先ほどまでのニコニコ顔を引っ込めて、寂しそうな表情を見せた。
「マウルで噂を聞いたのさ。
『羅刹の黒狼』……黒い狼の獣人が、軍の施設を壊して回っているとな。」
それを聞いたヒュウガは、表情を引き締めて答える。
「アンタに嘘は通じねぇし、取り繕うつもりもねぇ。
ソイツぁ確かに俺の事さ。」
「いいのか、お嬢さんの前だぞ?」
ゴウは静かにヒュウガを窘める。
その言葉を聞いたフローレンスがゴウに言った。
「構わない。
私はマウルの元間者で、フローレンスという。
ゴウ・スメラギ。貴方の名は軍の最重要注意人物のリストで拝見した。
一個師団を相手取る事のできる戦闘力を持つ、危険な存在だと。」
「一個師団とは買い被りだな。
だが、まあ多対一の戦闘はやぶさかではない。」
そう言うと、ゴウはコーヒーを一口啜った。
「しかしシャーワイユの女間者となると……『妖』を思い出すな。
案外お前さんがそうなのかもしれんが。」
「待てよ! なんでコイツがシャーワイユの人間だとわかった!?」
気色ばむヒュウガに、ゴウは静かな声で答える。
「この辺りに一番近いマウルの領地を考えたのさ。
そうなるとやはりシャーワイユ侯の領土が最も近い。
それに自らを間者だと明かす以上、何らかの形で向こうにはいられなくなった人間ということになる。
そして、シャーワイユ侯は最近政敵に粛清を受けた。
それを鑑みれば、鎌をかけるには十分な勝算が見えると思うがな?」
「しかし『妖』なんて言やぁ、女だってコト以外は何もかもが謎のままっていう超一級の特殊工作員だ。そんなのが簡単に寝返るもんかよ。」
ヒュウガは困惑の表情でゴウに詰め寄ろうとする。
そんな彼の動きを制するかのように、フローレンスは静かに口を開いた。
「『修羅の獅子』……私をその名で呼ぶのは非常に不愉快だ。」
フローレンスの声の響きには強烈な敵意がある。そして表情についても、珍しいことに不愉快さを隠そうともしていない。
ヒュウガは眉を顰め、フローレンスへと静かに語りかけた。
「……本当なのか?」
「黙っていたのは詫びなければいけない。折を見て追々話すつもりだった。」
「参ったね……女狐どころか毒蛇だったとはな……。」
ため息をつきながら椅子へドサリと腰を下ろすヒュウガ。
フローレンスはいつもの無表情に戻ってはいるものの、どことなく暗い影が落ちている。
「で、どうするよ? ヒュウガ。」
探るような目でゴウがヒュウガの顔を見据える。
「どうもこうもねぇよ。」
ゴウに向けて、ヒュウガは叩きつけるように答えた。
「春まではここで療養させる。それが約束だ。」




