第4話 昼食
昼はヒュウガとフローレンス二人で食べた。
その様子を軽くからかわれたりもしたが、誰も決して彼女を奇異の目で見たりはしていない。
多分ライザが上手く手を回したのだろう。フローレンスは他の村娘たちともそつなくやっているようだ。
「どうやら大丈夫なようだな?」
「仮面を被るのは得意だから。」
いつもの無表情でヒュウガに答えるフローレンス。
気が付くと目の前にこの間ボールを渡し損ねた少女がいた。
「あ……あの……。」
「どうしたの?」
優しい笑顔を見せてフローレンスが尋ねた。
「ブラン……いないの?」
「アイツは家で寝てるよ。
みんなの邪魔しちゃダメだからな。」
ヒュウガも懸命に笑顔を作り、可能な限り優しい声音で少女に答える。
少女は残念そうな中に安堵を見せつつ、ヒュウガに近寄ってきた。
「また遊びにくるかな?」
「ああ。祭りが終わったら、また遊べる。」
安心した少女の顔をも見たヒュウガの顔も、また自然にほころんでくる。
遠くから少女を呼ぶ女の声が聞こえた。多分母親だろう。
少女は声の方向に走り出す。
そして数歩走ったところでヒュウガとフローレンスに振り向くと、大きく手を二、三回振って、また駆け出していった。
「やればできる。」
「まぁな。
だが、肩が凝っていけねぇや。」
黒パンを口にしたフローレンスの隣で、ヒュウガは大きく肩を回す。
少しして休憩の終わりを告げる、木の板を叩く音が響いてきた。
「さて、また丸木運びかね。」
立ち上がったヒュウガに向けて、フローレンスからどことなく呆れた風の声がかけられた。
「正直なところ、その力は信じられない。
なぜあんな重い物を一人で運べるの?」
「鍛えてるからさ。」
「何故そこまで鍛えるの?
もう貴方は軍人じゃない。それだけの戦闘力を持つ必要はない。」
フローレンスのその言葉を聞いたヒュウガは、苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「それを言われりゃおしまいだが……。
ま、言ってみりゃ、俺ぁ『護る者』の道を選んじまったのさ。」
「『護る者』?」
不思議そうなフローレンスの言葉に、ヒュウガは静かに語り始めた。
「ああ。
こんな世の中だ。抗う力のない人間に理不尽を押し付ける連中もいる。
知識や法の力、金の力すらも通じない時、暴力で戦わにゃならん時もある。
そんな時、代わりに戦う者がいた方がいいだろう?
本来なら誰もそんなことは望まんからな。」
「それは犯罪だと思う。
暴力装置として許されるのは、飽くまでも治安維持のみのはず。」
フローレンスの表情が若干ではあるが強張った。
『暴力』という言葉に反応したのだろう。
ヒュウガはそんな彼女の様子をチラリと一瞥すると、半笑いで再び口を開いた。
「随分難しいことを言うんだな?
だが、考えてもみな。
魔獣相手に対話や賄賂が通じるかい?
何も理不尽を押し付けるのは、人間ばかりじゃない。どうかすれば自然すらも相手にしなきゃならん。
人を襲う獣や魔獣、天災なんかもあるわな。
その時に人外の力を奮えるものがいれば、人を安心させることもできるだろう?」
ヒュウガの言葉を聞き、フローレンスは一旦は口を噤んだ。
ほんのわずかな間、何かを考えたようなそぶりを見せた彼女は、どこか哀しげな響きの言葉を発した。
「でもその力を自分に向けられたら……と、考える人間も出る。」
フローレンスも立ち上がり、数歩先を行くヒュウガを追うように歩き始める。
彼女の言葉を耳にしたヒュウガの表情から笑いが消え、真剣な眼差しが空に向けられた。
「そこはコッチの人間性を信じてもらうしかねぇな。
だからこそ、人との繋がりは大事なのさ。
そこを軽んじる人間にとっては、他人の命も軽くなる。
命の重みを知るならば、絆を尊べ、ってな。」
「誰の言葉?」
「師匠の言葉さ。
ちっとばかり癖の強いオヤジだったが、尊敬できる人だった。」
「今は?」
「さぁな。今はどこかの旅の空だ。」
そんな二人の前にケインがやってきて、ヒュウガに声をかけた。
「ヒュウガ、お客さんだぜ?
お前さん、ずいぶん変わった人と付き合いがあるんだな。」




