第2話 噂
「へぇ! ソチラがヒュウガの客人かい?
でも水臭いねぇ……言ってくれりゃ服なんざ十着ぐらい用意してやったのに……。」
そう声を上げたのは、恰幅の良い女性のライザ。
農村であるナティカの村では、一番面倒見の良いおかみさんだと評判だ。
だが、同時に口が軽いことでも有名で、その点からヒュウガは協力者としてダニエラを選んだのだ。
その口の堅い女性に頼んでも、あちこちで噂は広がっている。
村という小さなコミュニティでは、余所者の噂はあっという間に広がってしまうものなのだろう。
「ま、来てくれたなら特別扱いはナシだ。
炊き出しの人手が欲しかったから、ソッチに回ってくれるかい?」
「解りました。よろしく。」
静かに、そして上品に頭を下げるフローレンス。
そんな彼女を見たライザは、ヒュウガにこっそり耳打ちした。
「あの娘、訳アリだね?」
そんなライザの言葉に、ヒュウガは囁き声で答えた。
「まあな。だが悪い奴じゃねぇよ。
その点は俺が請け負う。」
村娘に案内されて広場に作られた調理場に向かうフローレンス。
その背中を見送りながら、ライザはさらにヒュウガへ言った。
「あまりゴチャゴチャは言いたくないが……。
揉め事はゴメンだよ?」
「そんなことはねぇさ。
いざって時は、俺が何とかする。」
「アンタがそう言うなら信じるけどさ。
正直よそ者が歩き回られるのは怖くてね……。」
「春には出ていくことになってる。
冬の雪ン中、放り出すわけにもいかんしな。」
フローレンスは早速その手際の良さを発揮しているようだ。
調理場では多くの娘の手が止まり、彼女の一挙手一投足に目を丸くしている。
そんな様子を遠目で見たライザはヒュウガに一言こう言った。
「ナルホド。
助かるって点では間違いなさそうだね。」