第1話 覚醒
ベッドの上、女が緩やかに目を覚ました。
その視界一杯にあったのは、彼女を覗き込むユキヒョウの顔だった。
瞬間、全身に危険信号が走り、一気に覚醒状態へと移る。
しかし、動こうとするも思った通りに体が動かない。
彼女の心中に焦りが広がるが、表情の変化はなぜか乏しい。
なんとか動こうと身じろぎをする女を見て、ユキヒョウはプイときびすを返し、ベッドから跳び降りる。
ユキヒョウは部屋の扉までゆるゆると歩いていくと、その羽目板を叩きながら、小さく吠えた。
僅かな間。
少し軋んだ音と共に扉が開き、人影が姿を見せる。
「気が付いたかい?」
張りのある、やや低めの声。
その声の主は狼の顔を持つ、獣人だ。
右目の辺りに刀傷を持つその獣人は、ベッドに腰掛け、女に向けて語りかけた。
「全く……王国が気に入らねぇのはわからんでもねぇが、無茶はダメだ。
せめてもう半年は待てなかったのかい?」
そんな獣人の言葉を聞いているのかいないのか、女は静かに口を開いた。
「貴方は?」
その反応を見た獣人は、苦笑いを見せながら小さくかぶりを振った。
「やれやれ……礼の一つもねぇか……。
ま、いいさ。
俺ぁ、ヒュウガ・アマギという。
狩人やっててな、つい昨日お前ぇさんを山ン中で見つけたのさ。」
「どうして私を助けたの?」
表情も変えず、目を逸らすこともなく、女は矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。
「雪山で人を見つけたら、可能な限り助けるのが山の掟だ。
そうしねぇと、獣が人の味を覚えちまいかねねぇからな。
だから助けた。それだけだ。」
そう言うとヒュウガはベッドから立ち上がり、クローゼットを開いた。
「私の事は聞かないの?」
「言いたきゃ言やぁいいさ。
別に無理強いはしねぇよ。」
ヒュウガは、一枚の前開きのシャツを取り出し、女に向けて放り投げた。
「これでも着ててくれ。
お前ぇさんの御立派な服は、今じゃぼろ切れだ。」
軽く笑いながらそう言い残し、ヒュウガは部屋を出て行く。
残された女は、ここでようやく自分が素裸であることに気が付いた。
ユキヒョウは、シーツを引き寄せる女を見て、不思議そうに首をかしげていた。