表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第1章 -狩人と女-
2/63

第1話 覚醒

 ベッドの上、女が緩やかに目を覚ました。

 その視界一杯にあったのは、彼女を覗き込むユキヒョウの顔だった。


 瞬間、全身に危険信号が走り、一気に覚醒状態へと移る。

 しかし、動こうとするも思った通りに体が動かない。


 彼女の心中に焦りが広がるが、表情の変化はなぜか乏しい。


 なんとか動こうと身じろぎをする女を見て、ユキヒョウはプイときびすを返し、ベッドから跳び降りる。

 ユキヒョウは部屋の扉までゆるゆると歩いていくと、その羽目板を叩きながら、小さく吠えた。


 僅かな間。


 少し軋んだ音と共に扉が開き、人影が姿を見せる。


「気が付いたかい?」


 張りのある、やや低めの声。

 その声の主は狼の顔を持つ、獣人けものびとだ。


 右目の辺りに刀傷を持つその獣人は、ベッドに腰掛け、女に向けて語りかけた。


「全く……王国むこうが気に入らねぇのはわからんでもねぇが、無茶はダメだ。

 せめてもう半年は待てなかったのかい?」


 そんな獣人の言葉を聞いているのかいないのか、女は静かに口を開いた。


「貴方は?」


 その反応を見た獣人は、苦笑いを見せながら小さくかぶりを振った。


「やれやれ……礼の一つもねぇか……。

 ま、いいさ。

 俺ぁ、ヒュウガ・アマギという。

 狩人やっててな、つい昨日お前ぇさんを山ン中で見つけたのさ。」


「どうして私を助けたの?」


 表情も変えず、目を逸らすこともなく、女は矢継ぎ早に質問を浴びせてきた。


「雪山で人を見つけたら、可能な限り助けるのが山の掟だ。

 そうしねぇと、獣が人の味を覚えちまいかねねぇからな。

 だから助けた。それだけだ。」


 そう言うとヒュウガはベッドから立ち上がり、クローゼットを開いた。


「私の事は聞かないの?」


「言いたきゃ言やぁいいさ。

 別に無理強いはしねぇよ。」


 ヒュウガは、一枚の前開きのシャツを取り出し、女に向けて放り投げた。


「これでも着ててくれ。

 お前ぇさんの御立派な服は、今じゃぼろ切れだ。」


 軽く笑いながらそう言い残し、ヒュウガは部屋を出て行く。

 残された女は、ここでようやく自分が素裸であることに気が付いた。


 ユキヒョウは、シーツを引き寄せる女を見て、不思議そうに首をかしげていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ