表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第4章 -収穫祭-
19/63

第1話 祭の準備

 ヒュウガの住むナティカの村は、収穫祭の準備で大わらわだ。

 当然ヒュウガの家にも手伝いや頼みごとが舞い込んでくる。


 久しぶりによく晴れたこの日も、誰かがやってきて家のドアが叩かれていた。


「はい……?」


 勢いよくドンドンと叩かれていた扉の向こうから、フローレンスが答えを返す。

 その声が聞こえたのか、ドアを叩く音がピタリとやんだ。


「あ、あの! ヒュウガさんのお宅で間違いございませんですかな!?」


 若い男の上ずった声が大きく響く。


 その声を聞いたヒュウガが屋根裏から姿を見せ、大声で答えた。


「間違いねぇよ、ケイン。

 それとも俺がくたばったとでも思ったか?」


「い、いや、女の声が聞こえてくるなんて思わなくてよ……。」


 恐る恐るといった風で扉が開かれ、そこから赤毛の青年が顔を出す。


 ケインと呼ばれたその青年は、フローレンスの顔を見て、一気に鼻の下を伸ばしてきた。


「いや~、マジでベッピンだぁ……。

 この辺りのイモ娘なんて追いかける気もなくなるねぇ……。」


「おい、見せモンじゃねぇよ。

 それにコイツぁ雪山で遭難してたのを助けた、いわば客人だ。

 あんまり失礼なこと抜かしているとぶん殴るぞ?」


 ヒュウガが静かに窘めるのを聞いたケインは、はっとして彼の顔を見直した。

 その顔には薄ら笑いが浮かんでいるが、目は笑っていない。


 ケインは冷や汗を流しながら、口調を改める。


「い、いや悪かったよ……。

 それより、村長から言伝だ。」


「狸オヤジから?

 なんだよ?」


「えーと……待ってくれ。

 そうだそうだ。鹿を二頭ほど用意できないかと言ってきた。

 収穫祭のご馳走にしたいんだとよ。」


 屈託なく言うケインに向けて、ヒュウガは眉を顰めて答える。


「あっさり言ってくれるが、二頭となるとかなり時間がかかるぜ?

 収穫祭まで、もう二十日もねぇじゃねぇか。」


「お前さんの腕を見込んでとのコトだってよ。

 恩を売っときゃ後々美味しい目を見られるかも、だぜ?」


「あのオヤジがそんなタマか?

 碌々ツケも返さねぇドケチだってのは知ってるだろ?」


 ニヤニヤ顔で言うケインと、呆れ顔のヒュウガ。

 対照的な二人の会話が続いていく。


「あと村の若い衆が、広場の設営を手伝ってほしいって言ってるぜ。

 やるんならどっちかだな。」


「だったら設営だな。

 あのオヤジに借りはねぇが、お前ぇたちには借りばかりだ。」


「助かるよ。

 あと……よ、できたら……その、そちらのお嬢さんにも……。」


「客人に村の祭りを手伝えってか?

 厚かましいにも程があらぁ。」


 呆れが頂点に達したのか、一段大きい声でヒュウガが抗議する。


 だが、フローレンスは意外な言葉を返してきた。


「私は構わない。」


「マジで!?」


「おい、無理すんなよ。」


 喜色満面で素っ頓狂な声を上げるケインと、苦虫を噛み潰したかの表情を見せるヒュウガ。


 ここでも対照的な二人ではあったが、フローレンスは表情を変えることなく静かに答える。


「何もしないのも礼を欠く。

 炊き出しぐらいならできるから。」


「いや~、助かりますよぉ!

 女性陣もお針子や飾りつけで手いっぱいなんで!」


「本当に良いのか?」


「服を用意してもらったダニエラの恩もある。

 別に問題はない。」


 再び鼻の下を伸ばしているケインを前に、真面目な顔で尋ねるヒュウガ。


 そんな彼に答えるフローレンスの瞳には穏やかな輝きがあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ