第1話 夜話
ガストンの町から帰ってきたフローレンスは、どことなく険が取れ、柔和な雰囲気を見せるようになってきた。
ブランもよく懐き、この頃は甘えた様子でゴロゴロと喉を鳴らしては、膝元にすり寄ってくることもしばしばだ。
足の具合はみるみる良くなり、半月を待たずに普通に歩けるようになっていた。
だが、フローレンスはヒュウガの下を去ろうとしない。
いや、去れないのだ。
雪の降る日が増えてきている。
収穫祭を前にしてここまで雪が降るのは数えるほどしかなかったと、村人たちも口々に言っている。
この雪の多い年に、女一人遠くまで行くのはかなりの苦労となる。
ならばせめて、ある程度でも信頼のおける人間の下で春まで待った方がいい。
フローレンスはそう判断したのだろう。
夜。しんしんと降る雪を窓の外に眺め、ヒュウガとフローレンスはブランデーを緩やかに飲んでいた。
つまみはチーズとソーセージの薄切り、それにザワークラウトとふかしたジャガイモと、なかなか数が揃っている。
加えて言えば、今回はフローレンスのグラスに注がれたブランデーも、わずかずつではあるが減っていることも以前とは異なっている。
「酒の相手をしてくれるようになったのは、ありがてぇな。」
「私だって飲みたい時がある。」
「そうさな。」
フローレンスの言葉に、ヒュウガは短く答え、また軽くブランデーをあおった。
「よく降る……。」
「ああ。」
再びヒュウガが短く答えた。
今度はそれを聞いたフローレンスがグラスを口にする。
「こんな雪の日だった……。」
「言わなくてもいいんだぜ?」
「いえ、聞いてほしい。
不思議とそんな気分。」
そう言うと、フローレンスはとつとつと語り始めた。